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「#甘甘」のBL小説を読む
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近くの公園に来た私とコナン君は設置されている木製の机を挟んで、その付属のベンチに向かい合って腰を下ろしている。
微笑みながら首を傾げる私とは対照的に、コナン君は大人びた真剣な表情だ。


「ねえ、名前さん、最近このあたりに来たって言ってたよね。どうして?」
「言うなれば不可抗力、だよ」
「不可抗力?」
「そう。ここに来たのは私の意思ではないの」


私の言葉に眉を寄せ少し考えているらしいコナン君の、その賢そうな瞳の色をじいっと見つめる。


「それじゃあ、誰かに連れてこられたの?」
「そう、勝手にね」
「どうして?」
「その誰かさんには私も会ったことはないのだけれど、とても強欲らしくてね。利益を得たいのさ、とてもとても大きな、ね……けれどその利益を得ようとするにはある一定の条件を満たす人間が必要で、誰かさんはそれには該当しない」
「名前さんはその一定の条件を満たす人間だから、使われたってこと?」
「正解だよ、コナン君」
「その一定の条件って?」
「ふふ、それは秘密」


さらりと交わして微笑むと明らかに不満そうな顔をするコナン君。
ムッスーという表現がよく似合う。


「言ったでしょうコナン君、適切な距離を保つならば逃げないよ、とね」
「…それじゃあ、その利益って何?」
「知識や技術、だろうね、恐らく」
「知識や技術?どうしてそれを得るために、米花町に来たの?」
「それは偶然」
「えっ?偶然?」
「そう、場所はどこでも構わないの。そうだね例えばーー私が自分のことはすべて理解し尽くしたからと言って次は他人のことを理解し尽くそうとし自分の利益に変えようとしている状況かな。その研究対象は特定の誰かではなくて、自分以外なら誰でも良い……ふふ、けれど人間でさえ体は宇宙だと言われているのに、自分のことを把握したと思い他人にご執心だなんて哀れで、滑稽だよね」


この世界にはいない誰かさんへの侮蔑を嘲笑と共に吐き出す。
コナン君は目を丸くしてからそうして見定めるような、見極めるような視線を寄越してくる。


「名前さんの今までの話って本当、だよね?」
「おや、嘘に聞こえたかな」
「いや…ただ名前さんって、なんだかすごく不思議な雰囲気だから」
「…まあ信じるか信じないかはコナン君、君が決めることだから勝手にすればいい。けれどさっきも言ったように話さないことは話さない、と線引きはきっちりとさせてもらっているからね。だからそれ以外のところで嘘をつく利益は別に無いし、なによりーー」


口元で弧を描いて軽く片目をつぶる。


「君には直ぐに見抜かれそうだからね、小さな探偵さん」


するとコナン君は真剣な表情で私を見上げる。


「それなら名前さんは、その悪い奴らの仲間じゃないんだよね?」
「まさか、ご勘弁願いたいね。それに彼らの私に対する認識も仲間ではなくて貴重な駒、だよ」
「なら今すぐ奴らから手を引くんだ!」


私はコナン君の必死さに少し目を瞬かせる。


「コナン君…?彼らと手を組んだことはないと言ったでしょう?」
「だけどさっき、奴らとメールを…!」
「メール……コナン君、どうやら君は思い違いをしているようだからとりあえずそれを正させてもらうよ。私が今述べた誰かさんは、さっきのメール相手ではない」
「え!?そうなの?」
「そう。今の私と誰かさんの状況は、お互いがお互いに手を出せないものなんだ」
「…どういうこと?」


前の世界に関わることなので再びにっこりと微笑んで、秘密、と告げるとコナン君はまた不満そうに口を尖らせる。


「それじゃあ、メール相手と連絡を取っているのはどうして?」
「メール相手と私の関係は、誰かさんと私、の関係と同じものなんだ」
「それじゃあそいつらも、名前さんのような人達が得ることが出来る利益を狙ってるの?」
「そう」
「だけど名前さん、そういう奴らは嫌いだって言ってたよね?なのにどうして連絡を」
「ギブアンドテイクの関係を結んでね。気にくわないのは確か、けれど私が彼らの求めるものを持っているようにまた、彼らも私の必要とするものを持っていてる」


話しっぱなしで少し疲れた私は、気持ちを抑えようともせず次の質問を繰り出そうとしてくるコナン君から視線を外し、健康的な太陽を見上げると新鮮な空気を吸い込み体を伸ばす。


「ねえ、名前さんの必要とするものって何?」
「それも秘密……しかし君、せっかちだね」
「せっかちにもなるよ。名前さん、早くそいつらと手を切った方が良い」
「ふうん?コナン君、どうやら君は私のメール相手が誰なのか特定出来ているみたいだね」
「うん、知ってるよ……黒づくめの組織、だよね」


おや、と流石に驚いて目を丸くした私に対してコナン君の確信は揺るぎないものだったらしい、私の反応から正解だという情報を得ただろうにまったく動じていない。


黒づくめの組織…それは恐らくジンやウォッカが所属する組織を指しているんだろう。
この世界の悪の組織の数やその風貌は知らないけれど、ジンやウォッカの黒づくめな恰好は周りとは異なり異様でーー彼ら組織は秘密主義の癖に、あの目立つ外見は気にしないのだろうか。
まあ確かに悪の組織といえばイメージカラーは黒だけれど、ああした組織がそういくつもいては堪らない、からコナン君の言う黒づくめの組織と私のメール相手は同じだと思う。


けれど不思議なのは、どうしてコナン君が彼ら組織のことを知っていて、尚且つ私のメール相手が彼ら組織だと分かったのか。
彼らは外見はまあともかくとして秘密主義、なのにどうして子供のコナン君がその存在を知っているんだろう。
それに私の行動に彼らとの繋がりが垣間でも見えたものがあったかな。


もしかしてこの黒い携帯電話の機種は彼らしか持っていない、とか。
もしかしてコナン君は探偵故にスーパーハッカーな一面も持ち合わせていて、さっきの短時間の内に携帯電話の消えた履歴を検索したとか。


いくつかの理由を考えたところで、私は肩をすくめると軽く笑う。


「駄目だ、私程度には、君が彼ら組織を特定出来た理由はさっぱりだよ。分かるのは、コナン君がとても将来有望な探偵さんということだけだね」
「……俺が名前さんのメール相手を、黒づくめの組織だと特定出来た理由は、探偵だからってことだけじゃないんだ」
「ふむ…?」
「名前さんと、同じだよ」


同じ?
コナン君の言葉をオウム返しに言い問う。


「俺の今の状況も、不可抗力、に近いんだ」
「ーー驚いた。君の今の状況が何を意味するのかは分からないけれど、彼ら、君のような子供にさえ手を出すの?」
「うん、だから、手を引いて欲しいんだ。危険だよ。ーー名前さんの必要としているものは、黒づくめの組織じゃなきゃ用意出来ないものなの?」


コナン君の言葉に私は唸り、顎に指を添える。


正直言って黒づくめの組織と出会うまでは、世界の真理に関する何かがこの世界にあるのかさえ分からなかった。
けれど今は、文献という形できちんと残されているものがあると分かっている。
そうならば文献探しは一人でも出来る、ただ眠る場所から探すことになるので効率は圧倒的に悪いけれど。
それに例えば、黒づくめの組織が所持している文献がとても重要な内容の物だったら少々厄介だ。


するとコナン君が業を煮やしていたようにしていたかと思えばパッと明るく笑う。


「名前さんの必要なものがなんなのか教えてくれたら、僕も周りの人達に聞くことが出来るんだけどな。僕って結構偉い人とかすごい人とかと知り合いだから、名前さんの必要なものも揃えられるかもしれないよ?」
「おや…ふふ、かわいこぶっても駄目だよ。教えられない、秘密なの」


小さな探偵さんは、謎を明かすことを中々諦めてくれないな。
可愛いけれど、彼の探偵のレベルは微笑ましい探偵ごっこなんてものを遥かに超えている。


「それよりもコナン君、君は私が黒づくめの組織と何か関わりがあると思ったからあんなに必死で追いかけてきたんでしょう?彼らの情報を集めたいんだよね」


頷くコナン君に、たたみかけるように話を彼の側へと変えていく。


「だとしたら私が黒づくめの組織と手を切ってしまうと、それは君にとって、大事な手がかりを一つ失うことと同じだよ」
「うん、分かってるよ。だけどその為に名前さんや他の誰かを危険にさらすのは間違ってるから」
「…ふふ、コナン君は本当に素晴らしい探偵だ。正義感も強いとはね。…ただ、暴きたいと思うのは悪事だけにしてほしいけれど」


それに、と続ける。


「その心配は杞憂だよ、私にとっては危険じゃない。黒づくめの組織にとって私は貴重な存在だから、嬉しくないけれど、余程のことでもしない限りは無下にはされないしーー私は中々に強いんだ」
「それじゃあ、奴らとの契約を切るつもりは無いの?」
「うん。……ほら、そんな恐い顔をしていないでもっと喜んだらどうかな。私が彼らと契約していることは君にとって利益はあれど、損はないでしょう?私の影にコナン君がいると気づかれるような真似は君ならしないだろうし」


不満や正義感が見え隠れするコナン君の表情。
さっき見せた子供らしい笑顔でも見せないかなと頭を撫でれば、今度は不満を全面に押し出してきた。


「子供扱いしないでよ」
「おや、年相応に扱われるのは嫌い?」


わざとらしい子供っぽさと、見た目に似合わぬ大人びた態度や頭脳。
どちらが本当の彼か、なんてことも最初は考えていたけれど、きっとどちらも本物なんだろう。


「僕に協力してくれるのは、僕が子供だからなの」


子供扱いされるのを嫌がるくせに、拗ねたり、ふてくされたように話すという子供っぽさが可愛くて笑い声をこぼす。


「いや違うよコナン君、君に協力するのは自分の為さ」
「え?」
「君なら黒づくめの組織の秘密を暴き、正義の光の下にさらすことが出来る…そう予感させてくれる。何度も言ったように私は彼らのような人達が嫌いだからね、そんな様にを見るのは痛快でしょう?」
「あ、はは……」


どこか呆れたように笑うコナン君。

私は、遊具で遊んでいた子供たちがちらほらと帰っていくのを横目に口を開く。


「さて、大体のことは話し終えたしこれからのことも決まった。そろそろ帰ろうか、特に君はね」


言うとコナン君は空を見上げる。
つられて私も上を見れば、空の青がだんだんと濃くなっていて、彼方には一番星を見つける。
少し冷えた風が体を撫でた。


「ーーねえ、そういえば名前さん、首輪は二つもつけられないって言ってたよね。もしかしてその携帯、もう黒づくめの組織が何か付けてるの?」


公園を出てコナン君の帰り道を共に歩きながら、私は首を横に振る。


「この携帯にそういった仕掛けは無かったよ。それに直接に監視されてることも無い」
「え?それじゃあ首輪って」
「ふふ、今の同居人から頂いたんだ」
「ど、同居人?」


どこか引いているようなコナン君に、私は笑みを深める。


「仕方のないことなんだ。私を勝手にここに来させた誰かさんは生活手段なんて整えてくれていなくてね。今の同居人は、そんな怪しい私を拾ってくれた人」
「お、男の人?」
「そうだよ。まあ彼が私に首輪をつけた理由はどうやら怪しいからではなくて、土地勘やらが無い私が心配だったようだけれどね」
「ちょっ、待って!それ絶対怪しい人だよ!知らない女の人を自分の家に住まわせて、首輪をつけるなんて…!」
「おや、それではまるで彼が変態みたいじゃないか」
「そうなんだよ!」
「分かるの?」


強く頷くコナン君に、変態認定された快斗を思い笑い出しそうになるのをこらえて、どうして?と首を傾げる。
するとコナン君は、探偵の勘、とだけ答えた。


「ふふ」
「名前さん、笑ってる場合じゃないよ……僕の知り合いの兄ちゃんの家があって、今その兄ちゃんはいないんだけど…もう既に一人別の人が住んでるんだ。今夜にでもその人に、名前さんと同居してもらえるよう頼んでみるから、後少しだけ気をつけてね!」
「ふふ、うん、分かったよコナン君、変態には気をつける」




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