恋い焦がれた太陽 | ナノ
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「それでね、その店のケーキが美味しいんだって。ポーラが教えてくれたんだ」
「へぇ、それじゃあ今度のホグズミードで行ってみるか。お前はポーラと行くんだろ?」
「うん、あんなに目キラキラさせられたら、断れなくて…」


ニヤッと笑うと、グレッグも照れ臭そうに眉を下げて、気づかれてたか、と笑う。

――前にルイとスコッティーに、俺とグレッグの会話はガールズトークだといわれたことがある。
思いきり馬鹿にしてんじゃねぇかと思いきや、あいつらはまるで孫を見るジジイかのように穏やかっつうか、和んでた。


いや、グレッグはまだ分かるけどよ。
俺は違うだろ。


グレッグが話していく話題のケーキが俺の脳内を埋めていく中――


「やめて!…っこの、返してよ!」


大きな声が、俺の脳内、そして会話からケーキを追いやった。
グレッグと共に声のした方に何の気なしに視線をやると、そこにはまあ…。


「返してほしかったらかかってこいよ!」
「届かないだろ!チビで痩せっぽっちのお前には」


典型的ないわゆるイジメが起こっていて、俺は呆れから息をつく。


「くだらねー。今時ヒトの教科書奪って何が楽しいんだか」
「まあ、僕達もよく悪戯するし、誰かに迷惑かけることもあるから言えないかもしれないけど…」


それでも、とグレッグは不快そうに眉を寄せ顔を歪めた。


「誰かに嫌な気分をさせたいなんて思ってないよ」


歩みを止め、中庭で行われているそれを見やるグレッグ。

未だに繰り広げられているくだらねぇ状況から、俺は視線を周りに移した。

中庭の一角で行われているそれを見ているのは、今こうして通りかかったグレッグだけじゃねぇ。
同じ中庭には、野次を飛ばす男共や、馬鹿にしたように小さく笑う女子生徒。
今俺らがいる廊下にももちろん生徒がいるが、少し興味ありげに眺めて、けれど足は止めずに去っていく。
するとグレッグがその現場に向けて歩き始めた。

俺はそんなグレッグを見て、ポケットにつっこんでいた手を出した。


「ウィンガーディアムレヴィオーサ」


そうして杖を操るといじめている奴の手元から教科書を浮遊させ、驚きの声を上げた奴らを気にせずグレッグの元へと移動させる。

グレッグは俺を振り返らないままそれを受け取り、ありがとう名前、と言った。

杖をしまい再びポケットに手を入れる俺からは、グレッグの後ろ姿しか見えねぇ。

けどじっとそのまま動かねぇグレッグの向こうで、いじめていた奴らは気まずそうな顔をすると、ふて腐れたように踵を返して場を去っていく。


「ダセェ」


俺はそんな奴らの去っていく様を見ながらそう言った。

――グレッグは、俺ら四人の中じゃ一番物腰が柔らかい。
実際こいつはすげぇ優しいし、滅多に怒ることもねぇし、穏やかで、一緒にいて落ち着く奴だ。
だからか、グレッグのことを勘違いしている奴も結構多い。
大体の奴が考える通り、こいつは座学の成績もいいし、俺たちの悪戯に乗らなければ授業態度も評価されてる。
けど、クディッチの腕だってすげぇ、飛行も安定してるし。
それに何より、杖じゃなくて腕っぷしの喧嘩も、意外と強ぇ。

――前にもこうして持ち前の正義感から首をつっこんで、何を血迷ったのか標的をグレッグに変え襲ってきた奴らを、それは見事に返り討ちにしていた…っつうのをルイに聞いたことがある。

まあそういう色んなものが合わさって、今の奴らはグレッグにビビって逃げてったんだろう。
グレッグに敵わないっつう判断は、賢明だ。
けど、つまりは相手を選んで色々してるってことで、本当にダセェ。


「か、勝手なことしないで!」


すると、教科書を奪われていた女がそう声を上げたから、俺は二人に視線を戻す。

グレッグから受け取った教科書を抱え直すそいつは、前髪が長くて表情がよく見えねぇが、ちらりと見える耳が赤い。


「べ、別に僕は、取り返して欲しいなんて言ってない!」


その言葉を受け、グレッグが驚いた顔をしながら反射的らしく謝る。


「勝手なことされたくなかったら、力つけるんだな」


女が、弾かれたように俺を見る。


「誰かに教科書奪われたくねぇんなら、他人に取り返して欲しくねぇんなら、自分でどうにかできるくらいになれよ」


グッと歯を食いしばったらしいそいつを気にせずに俺はグレッグを呼ぶ。

グレッグは再びそいつに、ごめん、と謝ると俺の隣にきた。

元々の目的地へと向かいながら歩き始めた俺は、前をみたまま口を開く。


「素直じゃねぇやつ」
「…それ、名前が言う?」


グレッグの返しに、俺は黙って頭をかいた。












――夜、授業も終わり飯も食べ終えた俺は、自室のソファでリドルが貸してくれた本を読んでいた。
するとガチャ、とドアが開く音がして、思わず立ち上がる。


「名前、帰ってるの?」
「お、う」


ドアの方へと向かっていけば、ローブを脱ぎ掛けているリドルと目が合う。
リドルが俺を見るとにこっと笑ったから、俺はなんだか恥ずかしくて、目をそらす。

歩いてきたリドルに、キスされ、抱きしめられる。


「名前、ただいま。会いたかった」
「お、おう…おかえり」
「うん…ふふ、まだ恥ずかしいの?」
「ちがっ…いや、キ、キス、したりする時は心の準備みてぇのが、ほしいんだよ…な、情けねぇけど」


するとリドルの腕の力が強くなって、俺は思わず潰れた声を漏らす。


「ギ、ギブギブ、何すんだよ」
「名前、可愛い、大好き…!」
「ば、馬鹿じゃねえの!可愛くねえし!…お、れも、…好き」
「うん、うん、僕こんなに幸せでいいのかな」



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