欠伸が出そうなぐらい穏やかな中庭を見たまま、人気のねぇ廊下を歩くのは良い。
同僚が仕事なのに自分はまったり温泉につかる、みてぇな気分だな、まさに。
「――!」
するといきなり後ろから手を引かれて、声を上げると口をおさえられ、そのまま暗がりの壁へと強くおさえつけられた。
背中の痛みに眉を寄せながら、俺を壁との間にはさんでる黒い影を見あげて――
「テ、メェ…いきなり何しやがる!!」
少し眉を寄せながら俺をじっと見てくる、トム・マールヴォロ・リドルを睨みつけた。
「――…ねえ名字」
俺の左手はリドルの右手に、右手は左手に、壁に押しつけられたままの状態がイヤで苛ついて、離そうとする。
「〜〜っ…クソ、なんなんだよテメェ!」
「はは、君って意外と力弱いんだね。まあ見た目からして華奢だから、丁度良いか」
「、!ム、カつく…!」
俺が!こんな奴より、力が弱い…?!
しかも、今気づいたけど、こいつ…――!
「あれ、どうしたんだい名字、怒りのあまり失神でもした?」
俺より、背ぇ高い……!
ガクッと頭を下げた俺に、リドルが言う。
から、俺はリドルを見あげて睨みつけた。
「してねぇよ、馬鹿!…なんの用だ」
「ああそうだ、あのさ、――いつから気がついてた?僕の笑顔が、偽物だってこと」
そう言うとリドルはまた、偽物の笑顔を取り繕う。
気味が悪くて不快だから、俺は思いっきりリドルの足を踏んづけてやった。
ぎゅうっと眉が寄った顔は本物で、俺は笑う。
「ハ、だからさっきも言ったろ、そっちの顔してろよ。――つうか、取り繕ってるって自分から認めてきていいのか?今まで隠してきたんじゃねえの?あの気味わりぃ笑顔で」
「名字…きみは、いちいち一言多いよ」
「わりぃな、俺、正直だからよ」
明らかに取り繕ってる笑顔は、顔だけが別物みてぇに見える。
本当に、仮面をつけてる、っつうか……ま、ずっとそんな笑顔のマスクつけてる奴がいたら、気味わりぃの、当たり前だろ。
「あと質問に答えるなら、最初に見たときからだ。一年生の、組み分けされる時。お前は俺の前のやつだった」
「…なるほど…そんなに早くから…」
「……じゃあ、もう離せよ。ベラベラ話したりとかはしねぇから、安し、」
するとリドルが俺の目の前にズイッと顔をよせてきたから、思わず言葉が途切れる。
「良いんだよ名字、誰かに話すとか話さないとか、そんなことは。僕の積み上げた信頼は簡単には崩れない」
「…あっそ」
「それよりも、だ。名字、僕は君が気になったよ」
「――ハァ…?」
「僕の笑顔を見抜いた、君をね。だからさ、名前」
そう言って笑ったリドルの顔は――
「これからよろしく」
本物だった。
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