ハァ…とため息をつきながら廊下を歩けば、固まっていた女子生徒らから心配そうに声をかけられた。
ああ、大丈夫、と返事をして片手を上げて、俺は歩みをとめないままに、またため息。
――結局昨日の夜は、ダブルよりも大きなベッドで、それぞれ端に寄って眠った。
前にリドルがホグワーツ外に行った時に一人で寝たときも…寂しかった、けど…同じベッドで寝てんのにあんなに離れて寝たほうが、スゲェ、ツラかった…。
今朝も、起きたら既にリドル、居なかったし…もう、スゲェ、つらい…。
「名前が素直じゃないのは分かってるけど…やっぱり不安だよ…恋人なのにね」
「ば、馬鹿じゃねえの」
馬鹿だろ俺、ホント…。
ツラいとか言って、自分が悪いのによ…。
つうかリドルの方が、怒ったこともそうだし、ツラいって、思わせちまったよな…。
「――びっくりしたー!」
「ホント!思わず二度見しちゃったものね!」
――すると、前から女子生徒二人が小走りでこっちへ向かってきていて。
「リドル君、あの子のこと抱きしめてたけど、どういう関係なのかしら!」
すれ違う時に聞こえた言葉に、心臓がとまったような感覚になった。
少なくとも身体の動きは確実に止まった。
キャアキャアと騒ぎながら去っていく女子生徒らの声を聞きながら、掠れた息が、震える唇からこぼれる。
「ん、だよ…――なんだよ、それ…!」
女子生徒らが走ってきた方へと向かって、走り出す。
リドルが、誰かを抱きしめてたとか、意味分かんねぇし、嫌だ…!
けど、向かって、見つけて、まだ…そ、そんなことしてたら、どうするんだよ…?
――嫌に鳴る心臓を無視しようとしながら、走って走って庭の中へと来たら、歩いているリドルを見つけて。
「リドル…!!」
リドルが振り向いて、驚きに目を見開いて――俺は走ってリドルの前まで行くと、胸元の服を掴んだ。
「この…馬鹿野郎…!」
「…ハァ、名前、そんなに走って来てまで…」
「あ、謝る、から…!」
「…名前…?」
俺は震える手のままリドルの服を引き寄せて、顔を押しつけた。
「謝る、から……!ほかの誰かのとこなんて行くなよ…!馬鹿、リドル…!」
――すると数秒経って、リドルが慌てているらしい声が聞こえてきた。
「名前、え、名前…どうしたの、震えて…ねえ、名前」
「ごめん、リドル…ごめん」
「え、ええ?名前、本当にどうしたのさ、昨日のことならもう良いから、だから――そんなに震えて、消えそうにならないでよ…」
ぎゅう、と頭と肩に手を回されて抱きしめられて――俺は唇を噛みしめる。
「でも、誰かを抱きしめてた…って…」
「は…?なんだって?」
するとリドルの反応が思っていたのと違ったから、俺は少し目を丸くしながら、けど不安気にリドルを見上げる。
「ああちょっと待って名前、そんな顔しないで」
「そ、そんな、顔?」
「泣きそうになってる」
「な、泣きそうになんか…!っな、るだろ…!好きな奴が、ほ、他の誰かを抱きしめてたって聞いたら…!」
「待ってよ名前、僕が誰かを抱きしめていた?そんなのあり得ないよ、昨日の夜にも言ったよね?」
「だって僕からすれば名前以外の人間なんて、どうでもいいんだ。なのに名前が他の誰かを見ていたら…嫉妬…かなあ、これ」
「なのにその僕が名前以外の誰かを抱きしめる?あり得ないよ、本当に」
嬉しい気持ちに包まれながらも、俺は下を向いて
「…で、もさっきすれ違った奴らが、言ってて…」
「さっき……ああ、もしかしたら――転びそうになっていた女子生徒を支えた、そのときのことかもしれないね」
――三秒程、俺は固まった。
そして一気に頬に熱が上がるのが分かる。
「さ、ささ、えた?」
「そう、名前も知っての通り僕は猫かぶりだからね、一応支えたんだ」
「…っ、……っ」
「もしかしなくても名前…嫉妬、してくれたんだね…?」
「っ…し、嫉妬とかいう、レベルじゃねえよ!」
するとリドルは本当に嬉しそうな顔をして俺をまた抱きしめる。
「つ、つうか昨日の…不安だって言ってたのも…不安になる必要なんて全然ねぇって、言いたかったんだよ…今さら、おせぇけど」
「そうなの?」
「あ、当たり前だろ!お前が思ってるよりずっと、俺は、お前が…」
俺はリドルの体温と匂いを感じながら、目を瞑って息を吐いた。
「ホントに、よかった…リドルが、離れなくて…――いててて!ギブギブ!」
「だからね名前、あんまり可愛いこと…ハァ、このお願いは名前には無理か」
あまりにキツく抱きしめられたからリドルを見上げれば、リドルは笑った。
「僕が名前から離れていくかもしれない、なんて不安になる必要も、全然ないからね」
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