ベッドのうえで、お手製の飛び出す本を読んでいると、リドルから名前を呼ばれた。
――ちなみに飛び出す本っつうのは、開いたら立体になる絵本みてぇなもんじゃねえ、そんなの読まねぇ。
本を開いたら実際に映像が空間に浮かぶ、それもリアルタイムでやっているクディッチの試合を映し出しているものだ。
「わ、わりぃリドル、ちょっと待て」
「えー?…名前、何それ」
「今やってるクディッチの試合で、あと少しで試合終了なんだけどよ、僅差で…」
すると背中に重みを感じて――リドルがうつ伏せになっている俺の上に乗ったらしい。
リドルの匂いがして、俺は少しどきりとした。
けど視線は本から離れない。
「よしいけ!そこだ!」
「名前…」
「よっしゃ!入っ…!」
負けていたチームの選手がクアッフルを相手ゴールに入れた――のを見た瞬間、本が閉じられて、取り上げられて。
驚きと少しの怒った声を上げながら、俺は上半身を起こしてリドルを振り返った。
「お、おい!返せよ!」
「嫌だよ、つまらない」
「ハァ?この、ドS!」
「そうじゃなくて、名前がこんなの見ているのが、つまらないの」
リドルはにっこりと笑うと俺のお手製の本を軽く後ろへと投げた。
そしてグッと顔を近づける。
俺は思わず息をのんだ。
「だって僕からすれば名前以外の人間なんて、どうでもいいんだ。なのに名前が他の誰かを見ていたら…嫉妬…かなあ、これ」
「つ、つうか近い」
恥ずかしくてグイグイとリドルの肩を押せば、リドルはハァ…とため息をつく。
「名前が素直じゃないのは分かってるけど…やっぱり不安だよ…恋人なのにね」
思わぬリドルの言葉に、俺はリドルの肩を押していた手を離して、慌てた。
「ば、馬鹿じゃねえの」
「――――……」
「不安に……リド、ル…?」
不安になる必要なんて、全然、ねぇ。
と言おうとすれば、けれどリドルが無言のままに俺の上から退いて立ち上がったから、俺は少し疑問符を飛ばしながら、上半身を起こす。
リドルはそのまま何も言わずにバスルームへと行ってしまった。
「え…な、なんだ、よ…」
――少しして、シャワーの音が少し聞こえてくる。
ドクン、ドクンと心臓が強く動いて、焦りが募っていく。
リ、リドル、もしかして…怒っ、た…?
え、なん、で…よ、よく分からねぇけど…だって、明らかに怒ってた、よな…?
何も言わねぇし、雰囲気が、怒ってた…。
「名前が素直じゃないのは分かってるけど…やっぱり不安だよ…恋人なのにね」
「ば、馬鹿じゃねえの」
俺はハッと息をのんだ。
あ…も、もしかして、俺が馬鹿って言ったから…。
いや、多分馬鹿って言葉はそれほど…俺、いつも結構言ってるし…。
でも、あの状況で…リドルが不安だって言ったのに、くだらねぇことみたいに投げ捨てたから…。
不安になる必要なんて、全然、ねぇ。
も、もっと早く言ってればよかった…って後悔しても、まず馬鹿って言っちまったことの方が駄目だよな…。
お、俺がもしリドルに同じことを言って、簡単に振り払われたら、そりゃあ…怒るし、傷つく、よな…。
――するとガチャリとバスルームのドアが開いて、俺は弾かれるようにそっちを見た。
リドルは不機嫌そうな、ムスッとしたような表情のまま
「名前の馬鹿」
「んだと…!…あ」
いつもの調子で返してしまってから気づいても、もう遅くて。
リドルはそのままこっちへ歩いてくるとベッドの端に、俺に背中を向けて寝転がった。
「な、なんだよ…馬鹿…」
俺はそうリドルに言った。
確かにリドルに言った。
けど、心の中は自分に対する嫌な気持ちでいっぱいで――顔を歪めたまま俺は、バスルームに入る。
ドアを少し強く閉めて――ズルズルと、壁に背中をつけたままにしゃがみこんだ。
「馬鹿なの、俺、だろ…」
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