「ねえ、聞いた?」
「聞いたわよ!リドル君と名前君のことでしょう?」
「そうよ、――やっと恋人になった、って!」
キャーッ!と廊下に響き渡る黄色い声に、歩いている生徒達が不思議そうな視線を向ける。
リドルと名前について話す女子生徒らは、少し身体を縮こまらせてから、けれど嬉しそうな顔を寄せ合った。
「まさか、ホグワーツのトップを争う二人が、恋人どうしになるなんてね!」
「でもリドル君も名前君もはっきり言って別次元だったから、誰とくっついても絶対に、釣り合わない、って噂になってたと思うわ」
「まあ、この噂を聞いてショックを受けてる子たちも居るでしょうけどね。二人とも凄い人気だから」
「けどリドル君も名前君も、なんて言うんだろう…別次元すぎて、所詮は憧れの好きだった、って子も多いと思うのよ」
「私からすれば、彼らと本当に付き合えるって思ってた子が居ることのほうが、中々に衝撃的だけどね」
すると、とまらない会話の流れに一人の女子生徒がたまらない、という様子で、
「それよりも私、気になることがあるのよ、もう!」
「何よ、どうしたの?」
「あのね、その…リドル君と名前君って、どっちがリードするタイプなのかしら」
女子生徒らは、目を丸くして三秒程固まった。
――直に一人の女子生徒が難しい顔をしながら首を傾げて
「私は、名前君だと思うけど…だって彼、すごく行動力あるし…グイグイ引っ張っていきそうじゃない?」
「私、知ってるわよ!」
するとにこりと笑いながら言った女子生徒に、全員の視線が集まる。
その女子生徒は笑顔のまま、興奮したように
「あのね、この前、昼食時であまり人が居ない廊下で、偶然二人を見かけたのよ」
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「――だから名前、ネクタイはちゃんと…」
「嫌だ、堅苦しいんだよ」
「ハァ…分かった、僕が結んであげるよ」
――友人の待つ大広間へと向かって、空腹を感じながら歩いていたジェレミーは、廊下の先にトム・マールヴォロ・リドルと名前・名字の姿を見つけて、思わず角に身を隠した。
けれど少しだけ、顔をのぞかせて様子を伺う。
「…つうかだから、どうしてネクタイしなきゃならねえんだよ」
「目に毒だから」
「ハァ…?」
向かい合った状態で、リドルが名前のネクタイを結んでいる状態に、ジェレミーは口を手で抑える。
やっぱり最近のあの噂は、本当だったんだ!
そしてジェレミーは自身の口を手で抑えたことを、直ぐに褒め称えたくなった。
「なっ、馬鹿、お前…!」
リドルがネクタイを結び終えるとそのままネクタイを少し引っ張って、名前の額に軽くキスをしたからだ。
思わず少し高い声を上げて、けれど視線は逸らさないジェレミーの視界には、頬を赤くさせる名前の姿もちゃんとうつっていて。
「お、前ここどこだか分かってんのかよ!」
「ホグワーツの、廊下」
「当たってる、けど!」
「他の恋人だって、これ以上のことをしているの、見たことあるよ、それも人が普通に居る場所で、ね」
赤い顔をしたまま歩き出した名前の隣を、リドルも歩いていく。
「どう?これから毎日、僕が結んであげようか」
「毎日堅苦しいのは、流石に無理だ…」
「ということは結んだネクタイをそのままにしておいてくれるんだ、偉いね名前」
「ガキ扱いすんじゃねえ!つうかただ…お前がせっかく結んだの…解けねえだろ」
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「――何よ!それでこの話は終わりなの?」
「ご、ごめん、でも私、もうあれ以上見ていられなかったんだもの!」
胸を押さえながら言うジェレミーに、口元を手で抑えたまま他の女子生徒が
「分かるわ、その気持ち…話を聞いただけで今、心臓がもたないもの…」
「名前君のギャップ、たまらないわね…!」
「リドル君だって…!」
今度はキャーッ!という黄色い声ではなく、悶えるような声を上げる女子生徒らに、他の生徒達は完全に変なものを見る目で、彼女らを眺めた。
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