アンドレアスと名乗ったレイブンクローの男の顔を数秒まじまじと見つめてから、少し眉を寄せる。
「わ、わりぃ、聞き間違えたっつうか…今なんて…?」
「だ、だからね、僕、好きなんだ、君のことが。――恋愛対象として」
聞き間違えじゃなかった。
しかも「好き」の分類まで付け足された。
「スリザリンの、トム・マールヴォロ・リドル…」
「…!」
するとアンドレアスがそう静かに紡いで、俺は目を丸くする。
「聞いたんだ…噂で」
「う、わさ…?」
「うん、――名字君とリドル君が、恋愛関係にあるかもしれない…ってね」
「そ、んな噂が流れてんのかよ…!」
頬が熱くなってくるのを感じる。
アンドレアスは目を細めると
「でも、その噂を聞いて、僕は嬉しかったんだよ。――僕は前から、君のことが好きだった、けど、性別は同じ……周りの目が云々より、どうせ君に告白をしても、玉砕するだけだと思ってたから」
「…、……」
「けど、リドル君との噂を聞いて、名字君が同性が好きだって分かったから、少し勇気を――」
「ど、同性が好きなわけじゃねえよ!」
思わず上げた言葉に、アンドレアスがジッと俺を見る。
「俺は同性愛に偏見は別にねぇけど、だからって自分が、男が好きな、わけじゃ…」
「それじゃあ、やっぱり女の子が好きなんだ」
アンドレアスの言葉を頭の中で咀嚼すると、どうしてだか眉が寄って、首を傾げて、疑問符を浮かべたくなる。
「もしかして名字君って、男も女も大丈夫な…?」
わ、分かん、ね。
なんだ、これ。
女って言われてもピンとこねぇし…けど、だからって男かと言われても…それもピンとこねぇ。
…頭の中に、浮かぶのは…。
――そこで俺は、霧が晴れるような気分になった。
ハッと息をのむ。
「ち、ちげぇ!俺は、別に、男も女もいけるとか、じゃなくて…!性別、とかじゃなくて……!」
「はい、ストップ!」
「ウギャアアアア!」
するとアンドレアス…がいきなり顔を引っ張ったかと思えば、面の皮が剥がれて、ルイの顔が現れた。
「そんなに驚いてどうしたんだよ、名前なら俺の変装技術、知ってるだろー?」
「知ってる、けど…!俺に悪戯仕掛けるとは思ってねぇだろ!つうか、それは俺たち四人の中で決めて…!」
「そうなんだけど、名前の悩み事、解決させてあげたいなあって思って」
ルイは自分の喉に向かって杖を振る。
きっと声を変化させていた魔法を解くんだろう。
「グレッグから聞いたんだ、名前が悩んでる、って」
そうして紡がれた声はやっぱり、ルイの声で――ルイは笑った。
「どう?解決出来た?」
俺は強く、そして速く動く心臓を感じながら、少し目を逸らした。
「お…お、う…」
「んふふ、よかった!それじゃあ安心させてあげなよ!名前が何かに悩んでいることに、心配していたんだから」
「ハァ…?って、おい」
わけの分からない言葉に首を傾げると、ルイに背中を押されて後ろを向かされて
「――リ、ドル」
よく分からないような表情で俺を見ている、リドルと目が合った。
――心臓が跳ねる。
「それじゃまあ、邪魔者は退散するからよ」
「ス、スコッティー!お前も居たのかよ!」
楽しそうに笑ったスコッティーはリドルの肩を叩くと、ルイと一緒に走って去っていった。
――俺はギュウッと自分の胸の服を掴んだ。
つ、つうか、ヤベ…自覚したら、心臓、苦し…。
「ど、どうしたんだい名前、大丈夫?」
「お、おう」
「…それより、悩み…解決した、って…」
心臓が跳ねる。
――俺はリドルの方、木陰へと歩いていくと、リドルの肩を押してリドルを座らせた。
そうして自分も、リドルの前に座る。
「名前…?」
リドルのうかがうような視線と目が合って――俺はその目を真っ直ぐに見つめながら、噛んでいた唇を開いた。
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