――グレッグに相談…というか質問というか…をした日の夜、風呂から上がった俺は暖炉の前のソファーに座っていた。
一応膝の上には開かれた小説が置いてあるけど、まったく読んでいない。
「頑張って自分の気持ち、見つけてみてね、名前」
グレッグの笑顔と、そして言葉が脳裏を過る。
「名前」
つうか、自分のこと…自分の気持ちなのによく分かんねぇとか、あるんだな…。
いや、よく分からねぇっつうか…こんな、心臓ドキドキするの、初めてで…。
「名前?」
クディッチで勝った時とか、イタズラする時とかは、また全然ちげぇし…。
し、しかも、リドルが笑った時とか、こう…到底言い表せねぇ感じで…。
「…名前」
結構、グレッグの答えてくれたことに、当てはまってた、よな…。
いや、好きの定義とかは、人によって違うだろうけど……俺はリドルに、他の誰とも違う…気持ちを…確かに、持って――
「ねえ、名前」
するといきなりリドルが近距離で俺を覗き込んでいて、目を見開いて固まった俺に、リドルが少し笑う。
「やっと気づいた」
「バッ、馬鹿、お前、ちか」
「だって、さっきから呼んでいるのに気づかないから。――それより名前」
バサッと頭にタオルをかけられて、思わず目を閉じる。
するとリドルに軽く手を引かれて横を向かされると、隣にリドルが座った。
ソファーの上で向かい合うように座るかたちになる。
「髪の毛、濡れたままで風邪引いちゃうよ。――ほら、首とかも濡れてる」
「お、おい、やめ…自分で拭けるって」
「名前、いい匂いだね」
「聞けよ!」
タオルで優しく拭かれながら、自然と目元が緩む。
リドルは笑い声を漏らすと、
「どうしてだろうね」
「あ…?何、が」
「同じシャンプーやらの筈なのに、名前からはすごく、いい匂いがするよ」
「…?」
俺は首を傾げて、リドルへと少し身体をのり出した。
そしてリドルの髪に顔を寄せると、また首を傾げる。
「別に、変わらなくね…?」
「そ、そうかもしれない」
「?リドル?どうした?」
「いや、――名前の馬鹿」
「ンだとテメェ!」
それからは少し強く頭を拭かれました、まる
「――そういえば名前、何かあったのかい?」
「は…?何、か…?」
「うん、だって僕がお風呂から上がってきたら、名前、ぼうっとしてたよね?」
「あ…」
――髪を拭き終わってくれてからリドルが言った言葉に、こいつ自身のことでモヤモヤ…っつうか色々と考えていたことを思い出す。
俺はリドルから視線を逸らして、そしていつの間にやら床に落ちていた小説を視界に入れた。
「…そう、そうだ、あの…小説、読んでて…」
「…全然ページ進んでなかったようだけど」
「ゆ、ゆっくり読んでたんだよ」
「というか、名前その本前にもう読み終わってたよね」
「……な、何回も読む派なんだよ!俺は!」
ふうん、とよく分からない表情で言ったリドルは、立ち上がると、その床に落ちた小説を手に取って、本棚の方へと歩いていく。
「名前って嘘、下手だよね」
「――!」
「秘密なんて…妬けるなぁ」
そして今度は、よく分からないような声音で言ったリドルの言葉に、俺は視線を意味もなく暖炉にやった。
「お前のことだっつうの…」
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