「また随分と貰ってきたね…もしかして毎年こうなの?」
――02月14日、バレンタインデー。
イギリスでは、女から男へ、とか、チョコレートを主に贈るなんて風習は特には無いけど、俺が日本人だってことで、毎年女子からこの日はチョコレートを、そりゃ抱えきれねぇほどに貰う。
それらを入れる為の袋でさえ、一緒にくれる奴も居る。
――部屋に帰って来て、ルイ曰くサンタみたいな袋を床に置いた俺は、リドルを見て首を傾げた。
「そういうお前は…何も貰ってねぇのか?お前の人気からして、あり得ねぇけど…」
「その点は、一年生の頃から策は取ってあるからね」
…こいつが、ホグワーツのどれくらいから人気あるのか詳しいことは知らねぇけど…一つも貰わないような策って、何したんだよ…。
まあ、お得意の話術で上手くやったんだろうけど…。
「それより名前、これだけのチョコレート、食べられるのかい?」
「甘いものは別に嫌いじゃねぇし、冷やしておけば結構持つからな」
「ふうん…僕は見てるだけで少し胸焼けするよ」
「まあ、それにせっかくくれたもんだし、な」
…ふうん、とまたリドルが呟いた。
――俺は杖を振って袋の中身を整理していく。
そうして一つの箱を手に取って、ラッピングを取った。
「――あ、うめぇ」
その箱に入っていたのは四角く切られた生チョコで――元々生チョコが好きな俺の顔は思わず緩む。
「…美味しい?」
「ああ、お前も食うか?」
「…そうだね、じゃあ、貰おうかな」
チョコが入った箱を手に、振り返りかけて――固まった。
リドルの手が俺の頭に回っていて、顔が近づいたかと思ったら――口の直ぐ横を、舐められた。
「――確かに、美味しいかもね」
リドルはにっこりと笑って、そう言った。
――俺は、頬が熱くなるのを感じながら、口を意味も分からずに開閉させる。
「テ、テ、テメェ!何しやがる!」
「だって、チョコの粉、ついてたから。――それより名前、名前は本当に、罪作りだよね…」
「ハ、ハァ?」
「そんなに取り乱して顔赤くしたら、勘違いするよ」
俺は思わず口元を腕で隠す。
「ふふ、可愛い」
「かっ…可愛くねぇ!」
「ごめんね、怒っちゃった?――許してくれないかな?名前」
そうしてちょっとおどけた風に笑ったリドルは、一旦背中に手を隠すと――今度はその手に、薔薇の花束を持って俺に向けてきた。
「日本人とはいえ名前なら知っていると思うけど…この国じゃあ、愛する人に、何かを贈るんだよ」
――昔は、花束渡すとか外人結構スゲェ、とか思ってた。
けど、スコッティーみたいな奴は外人の中でも更にクサいことするし、慣れた。
「けど、俺…!男…!」
「愛する人に、だよ、名前」
「そうじゃなくて…お、俺女じゃねぇから、花とかよく分かんねぇし、綺麗とか、その、花眺めるとか、し、しねぇし、」
――けど、いつかのクディッチで、リドルが俺の為を思ってブラッジャーに魔法をかけた時、俺はリドルの気持ちが、嬉しくて照れくさかった。
そしてついこの間、リドルが俺の為にブレスレットを直してくれた、その気持ちが嬉しかった。
――俺はそのことを思い出して、そして、今確かに感じている嬉しさに、少しうつ向いた。
「な、眺めて、綺麗だとかは、分かんねぇかもしれねぇけど――あ、ありがとな…嬉しい」
――次の瞬間、俺はリドルに抱きつかれた。
「おい…馬鹿…!せっかく、花…潰れる…!」
「名前、愛してるよ…本当に、愛してる」
――リドルを押し返そうとした手は、けれど離れれば、熱を持った俺の顔が見られてしまうから、リドルの服を握りしめるに終わった。
111116