俺の両手首を掴んでベッドに押しつけるその力は強くて、痛い程なのに。
その顔は、悲しそうで。
俺は思わず言葉に詰まった。
「やっぱり、嫌だった…?」
「リ、リド…ル」
「名前、言ってたもんね、一人で堪能する、って…」
「お、おい…」
「やっぱり一人で寝る方が良いって、実感した…?」
リドルが悲しそうに、辛そうに眉を寄せた。
「ち、げぇよ…!」
だから俺は咄嗟に、そう言ってしまった…のだ。
言ってから自分で気づいて、ハッと息をのむ。
リドルが目を丸くする。
「違うの…?」
「あ…いや…」
「なら…どうして?」
俺はグッ、と言葉に詰まる。
「…まあ、良いよ、別に」
「え…」
「僕はあの時、名前の言葉で少し怖じ気づいたんだ」
「二日はこの広いベッドを一人で堪能出来るんだな」
「それで、帰ってきたらベッドが分かれてるし…名前が僕の傍に居たくないのかと」
「ち、ちげぇって」
「…うん、それなら、別に良いんだ、何が理由でも」
けど、そう言うリドルの表情はまだ、どこか少し、悲しそうで。
――俺はリドルのローブを掴んだ。
「お、前だって…言ってただろ、あの、風邪ひいた時に」
「僕が…?なんて…?」
「今まで経験がねぇと、それが当たり前だから、別になんとも思わねぇ…って」
「でも大丈夫だよ、今まで別に、誰かに傍に居て欲しいと思ったこと、ないんだ…」
「風邪にかかった時に、誰かが傍に居たことがあったなら、もしかしたら思ったかもしれないね…でも、僕は特に、誰も居なかったから……風邪の時だって一人の状態が普通なんだ」
「…確かに言ったけど…えっと、それが、どういう…?」
「…っ、だ、だから」
じわじわ、自分の頬が熱くなってきてんのも、そしてそれにリドルが少し目を丸くしてんのも、全部自分で分かってるから、余計に恥ずかしい、…ちくしょう…。
俺は目を伏せた。
「た、とえば…――風邪引いた時に誰かが傍に居たってのを何回かでも経験すると…その誰かが居なかった時に…さ…寂、しい…だろ…」
――今までは、グリフィンドールの寮部屋では、当たり前だけど一人で寝てた。
…けど、リドルが後ろから引っ付いてきて…リドルの匂いに包まれて寝るのが当たり前になって……一人で寝たら、変な感じするし冷てぇし…。
――恥ずかしくて、少しうつ向いたまま、ふとリドルを見上げるとその頬が少し赤くて、口元が緩んでて…にやけてたから、俺は緩んでいたリドルの手から腕を抜き出し、その頬に軽くパンチした。
「ふっ、ふざけんな馬鹿!にやけんな気持ちわりぃ!」
「だって…しょうがないだろ、これは。つまり名前は僕が居なくて、寂しかったんだよね?」
「…っ、……っ」
「もう…これでにやけないで、いつにやけるんだ」
満面の笑み、つうかにやけてるリドルは俺の両手首から手を離すと、背中に手を回して抱きしめてきた。
俺はリドルの肩を押す。
「バ、バカ離せよ!」
「ねえ名前、けれどどうしてそれで、ベッドを分けることになるんだい?」
「聞けよ!…まあそれは、結果的に言うと経験に慣れたら良くないかな…って」
「どうして?名前も言っていただろう?」
「今まで誰かが居なかったからって、これから先も、そうなる理由はねぇだろ」
「同じことだよ。別に名前だって、一人で寝ることに慣れる必要はない」
顔を上げたリドルは、未だに頬を赤くしたまま、にっこりと笑った。
「大丈夫、これからは名前を寂しくさせないよう、教授達からの誘いはちゃんと、断るから」
「っ、いらねぇよ!馬鹿!」
つうか離せ!と俺は吠えた。
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