――スリザリンとのクディッチの練習試合中。
グリフィンドールのチームに二人居る女子の内の一人が、スリザリンの選手二人に挟まれたまま、下降させられていった。
「エルヴィス!!」
「俺が行く…!」
明らかに嫌がらせというか不正なその行動に舌を打って、箒の先を地面に向けて俺は急降下していく。
思った通り、地面に近くなったところでスリザリンの選手二人はエルヴィスから離れて上昇すると空に戻る。
その離れざまに軽く押されたエルヴィスは体勢を崩していて、このままじゃ地面に落ちそうだ。
俺は地面に近くなったところで腕に力を入れると、箒を持ち上げて地面と平行に飛んで、エルヴィスの身体に手を回して、つかまえた。
――エルヴィスが自身の箒を手放したのを見てから、スピードを緩めて、地面に足をつく。
「怪我は、――ねぇな」
そうしてスリザリンの選手を睨みつけようと上を向いて、俺の視界は――迫ってくるブラッジャーによって、一瞬で埋め尽くされた。
「――――……」
「――名前!」
「目ぇ覚めたか!」
「良かった…!」
「お前ら……痛っ」
――目を覚ましたら、グリフィンドールのチームメート達がホッとしたような笑顔でそう声をかけてきて。
疑問符を飛ばして起き上がろうとすれば後頭部に走った鈍痛に、思わず顔を歪めた。
グレッグが慌てて、
「まだ動くなよ名前、血だって少し出たんだから」
「血……」
「…もしかして、記憶喪失とか言わないよな?」
「…あー、いや…大丈夫」
そうだ、エルヴィスを助けて地面に着いて…上を見上げたらブラッジャーが迫って…。
「ごめん、名前…」
「…いや、別にお前のせいじゃねぇよ」
手を握りしめながらうつむいているエルヴィスは、でも、と潰したような声で言う。
「あなた、あの一瞬の間でも、私を庇おうとして…名前一人だけだったらきっと、避けられたわ」
「エルヴィスが気に病む必要ねぇよ!悪いのは全部!スリザリンの奴らだろ!」
そう言うルイの頬には絆創膏があって。
そして他のチームメートも似たような顔をしていることに今更ながら思考が行った。
「…なに、お前らもしかして喧嘩したのかよ」
「当たり前だろ、あれで殴らずにいられるか」
「あの状態の名前達にブラッジャーを向かわせるなんて、あり得ないからね」
――すると、走る足音が聞こえてきて、俺達は、保健室の入口の方を振り返った。
「――名前…!」
「リ、ドル」
――その足音の正体はリドルで、普段からは想像もつかないような、顔を青ざめさせて息を切らしたリドルの姿に、思わず目を丸くした。
リドルは俺を見て、息を切らしたまま少し驚いたような顔をすると、靴音を響かせてこっちに早足で歩いてくる。
「ほら、お前ら行くぞ」
「じゃあ名前、ごゆっくりね」
「アホか!馬鹿!」
にやりと笑ったスコッティー達が、他のチームメートを促して、リドルとは逆に去っていく。
――そうしてベッドの傍に立ったリドルを見上げて、目が合って――リドルがぐしゃりと顔を歪めたから、俺はまた驚いた。
「よかった…名前…」
そうして俺を抱きしめるリドルの手と、そして声が、震えていた。
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