「おはよう、名前」
――朝起きると、いつもリドルが、にっこりと笑顔で挨拶をしてくる。
結局一緒に寝てるのか、なんてツッコミは…まあ俺自身も数日前まではしてたけど、案外もう慣れちまった。
…自分のことを好きだと言ってる奴と一緒に寝るなんて、考えナシかもしれねぇけど…そこは相手が同性だからなのか、よく実感がわかねぇ。
まあ、とにもかくにも傍に寝転がっている、そのリドルの顔を、俺はジッと見て、そして口を開いた。
「お前、馬鹿だろ」
「…名前、馬鹿は風邪引かないって言葉、知ってる?」
「知ってるけど、自分が風邪引いたことに気がつかねえようなお前は馬鹿だ」
大きなベッドに一人で寝転がるリドルは、いつもよりも少しだけ頬を赤くして、自分の額に腕をあてている。
「それにしても名前、よく分かったね…僕自身で気づかなかったのに…」
「それは俺が天才なのとお前が馬鹿の言葉でこと足りる」
いつもよりも息が多く、そしてゆっくりと話すリドルに淡々と言葉を返しながら、毛布を二枚、少し乱雑にかけた。
「名前…」
「あ?」
「毛布、多くない…?」
「多くねぇよ。風邪ってのはな、頭冷やして身体暖めて汗かいて治すもんだ。――多分、そして確か」
曖昧…、とリドルが笑う。
「ていうか、少し…重いんだけど」
「我慢しろよ、馬鹿リドル」
――俺は保険医の先生から貰ってきた風邪薬を、水が入ったビンと、そしてコップと共に、ベッドの横の小さなテーブルの上に置いた。
そしてベッドに腰掛けて、リドルを見下ろす。
「それにしても、お前に喰らいつくとか、今年のウイルスは怖いもの知らずだな」
「……?」
「見返りっつうか仕返しが怖すぎんだろ、普通は」
息をついて、なんとも言えないような顔をしたリドルは、枕元にある時計をチラリと見ると、また俺を見て、
「名前、そろそろ…行かないのかい?授業が…」
「風邪のときは、誰かが傍に居た方が良いっつうからな」
「……行かないの?」
まあな、と頷いて俺は、リドルが貸してきた小説の続きを読もうと、本を手に取る。
「…馬鹿だよね、名前は」
「ァア?ンだとテメェ」
「僕をもっと惚れさせて…」
「、…いや、あー…別にそういうわけじゃ、ねぇよ」
「うん、分かってる」
湿った息を吐き出したリドルはもう一度、分かってるよ、と言った。
「名前がそういう、馬鹿で無自覚だってことはね…」
「おい」
「でも大丈夫だよ、今まで別に、誰かに傍に居て欲しいと思ったこと、ないんだ…」
俺は少し、眉を寄せる。
「風邪にかかった時に、誰かが傍に居たことがあったなら、もしかしたら思ったかもしれないね…でも、僕は特に、誰も居なかったから……風邪の時だって一人の状態が普通なんだ」
そうして目を閉じたリドルを、少し眺める。
けど直ぐに、本を枕の上に置くとリドルの隣に、うつぶせに寝転がった。
「名前…」
「今まで誰かが居なかったからって、これから先も、そうなる理由はねぇだろ」
本から視線は外さないまま、リドルに言う。
「お前が今、風邪で辛い時に、俺が傍に居るのが嫌だとか言っても、俺はここに居る。――お前だって最初は無理矢理、俺をこの部屋に一緒に住まわせたんだからな」
「――…うん、名前、傍に居てよ」
俺はガッツポーズをした。
「よっしゃあ!今日の授業全部正当な理由でサボり!」
「ちょっと名前」
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