「おい!馬鹿!止まれよ!ったく引っ張んな!」
ダンブルドア、先生の部屋へと向かうリドルに掴まれている右手首を、イライラとしながら引っ張ってみるけど、抜けなくてさらに苛つく。
ついでに言うと廊下の端で俺達を見ながら、顔を赤くしてキャアキャアと何がなんだか黄色い声を上げている女達も、いったいなんなんだ。
「あ、あのなぁ!枠は取り払って考えることに、ま、まぁ同意はしたかもしれねぇけど――同じ部屋で暮らすことは了承してねぇだろ!つうか、了承なんてするか!」
「本当はさ、校長に言いに行こうかと思ったんだ」
「オイこら、俺の話聞いてんのか」
「でもこの場合で融通がききそうなのは、あの狸ジジイだったんだよね…ハァ」
「ハァ…じゃねえよ、俺の話聞いてんのか。つうか、狸ジジイは言い過ぎだろ、俺だってせめて呼び捨てだ」
――ねぇ名前、一緒の部屋に住もうよ。
なんて、ホグワーツの生活スタイルを完全に無視した発言をしやがったリドル、ざまあみやがれ。
いくらお前が優等生ぶってるっつってもなぁ、思い通りにいくことと、そうじゃないもんくらいあるんだよ。
同じ寮の人間なら、まあそういう事例はこれまでにもいくつか聞いたけど…俺らは寮が違うんだよ。
つうか、グリフィンドールとスリザリンだ。
絶対に、あり得ねぇよ。
「いいじゃろう、許可する」
「ありがとうございます、じゃあ名前、行こう」
「いや…いやいやいやおかしいだろ狸ジジイ!あ、スイマセン、リドルが言ってたのがうつりました」
「嫌だな名前、僕はそんなこと言ってないよ」
にっこりと笑ったリドルをジト目で見て、とりあえず黙っとけと制す。
「いや、おかしいじゃねぇですか!」
「どうした名前、場所が気に入らなかったかの…色々と目を引いても困るから、人目につかない、お主らのような魔法がよく使える奴にしか見つからないところに、部屋をかまえたんじゃが…」
「いや…全部おかしいじゃねえですか!」
「フフ、名前、言葉遣いおかしいよ」
「テメェは黙っとけっつったろリドル!」
ほのぼの、なんて言葉がまったく似合いそうな雰囲気のダンブルドア。
背景とか周りにヒヨコが居てもおかしくはねぇ。
「ダンブルドア、先生、なら気づいてるんじゃねえですか。こいつ、ただの猫かぶりだから、優等生だからって甘くしちゃ駄目ですよ」
言うと、ダンブルドア、先生はにっこりと目を細めた。
「トム、君は先に、部屋に行ってなさい」
「……………分かりました」
――そうしてリドルが去ってから、俺はポツリと、
「ダンブルドア、先生の前じゃリドルの猫かぶりも、下手くそですね」
「ほっほっほ、まぁ、今の不機嫌を隠し切れない理由には…名前、お主が関わっておるからじゃよ」
眉を寄せて、首を傾げる。
「俺が……?」
「トムは恐らく、名前と少しの間でも離れたくないのじゃろう」
「はぁ…?って、え、は?気づいて…?!」
ダンブルドア、先生が笑う。
「自分の経験から、そういうことには案外鋭い」
「って、ことは、ダンブルドア、先生も昔、」
「わしのことは、今はもう昔のこと、と置いておこう。…わしはな名前、嬉しいんじゃよ。トムがあんなにも、誰かに対して、プラスな感情を持ち、そして表すことが」
俺の頭の中には、前の、仮面をかぶったような表情のリドルと、今の、本当の表情を見せるリドルが浮かんだ。
「つうか、だからって俺を差し出さねぇでくださいよ」
111020