「ぉ、い…?頭大丈夫かよ、つうか近い!」
「当たり前だろ、――キスしたい、って、聞こえてた?」
「だから、頭大丈夫かよっつっただろうが!!」
ググッ…とリドルの肩を押すも、まったく動かねぇ。
このやろ…!と更に力を込めようとした時、
「…ねえ名前、分かる?」
「…っ」
「名前はこうして僕に掴まれるだけで、動けなくなっちゃうんだ。――可愛くてしょうがないよ」
俺の左手はリドルの右手に、そして右手は左手、と、壁に押しつけられる。
力を込めてもそれは揺るがなくて、俺はリドルを睨み上げた。
「ふざけんな…!少し!俺より力が強いからって…!」
そして、足でも蹴ってやろうかとした――時、見回りなのか、ズル、ズル、と這うような足音が聞こえてきて、俺は思わずそれを止める。
するとリドルが更に、俺に顔を寄せて――
「名前、好きだよ…」
「――っ、うおあああ!」
俺はリドルの腹を、思いっきり蹴った。
少し咳き込みながら俺から離れたリドルを、今度は手で、透明マントごと追いやる。
「おい!誰だ!」
やっぱり、見回りだった。
俺はリドルと、そして見回りの両方からに心臓を強く速く鳴らされながら、とりあえず、見回りとは違う方向へと走っていった――。
「――やっぱりここに居た」
「っ!」
声だけで分かってたけど、リドルがここに来て、驚いたし、多分、焦った。
振り返るとリドルは透明マントを持ったまま、本当に、柔らかく笑う。
「おはよう、名前。会えて嬉しいよ」
「…、……、」
……なんつーか、どう対応したら良いのか分からねぇ…。
いや、だって昨日、…す、好きとか、キスとか…。
フイッと顔を逸らして、庭の、透き通った池に目をやる。
「…名前、透明マント、ありがとう」
「…おう」
「――…僕はね、名前の、こういうところも好きだ」
「!……」
「この透明マント…自分がかぶって逃げれば良かったのに…僕を突き飛ばしておきながら、結局は僕に優しくした」
「…いや…俺は、別に…」
そしたらリドルがこぼすように笑ったから、怪訝な風に眉を寄せて、リドルを見る。
「そうやって意地張るのなんか、もう、胸が一杯になる」
「意地とか、張ってねーよ」
「はいはい、そういうことにしておこうか」
「ダアッ!だから、張ってねぇって言って…!」
――そして俺は、思わず、口をつぐんだ。
リドルが、本当に優しい瞳で、俺を見ていたから。
「…ねえ、名前。僕は本当に、本当に、君が好きだよ。…名前は、僕に、好きっていう感情を、初めて教えてくれたんだ」
――…なんて言ったら良いのか、分かん、ねぇ。
「 名前は、君の親のことからも、性別は気にしないと言っていたよね」
「え……あ、まあ…」
「じゃあ、お願いだ。――性とかいう枠は取り払って、僕の気持ちを、考えて欲しい」
「あー…まあそれなら、…え、つうか……ほ、本気?」
「当たり前だろ。というか――諦める気はないから」
111020