――クディッチ。
グリフィンドール対スリザリンの試合中、向かってきたブラッジャーを避けようとして――けど、ブラッジャーの方から方向転換したのを見て、俺は訝しげに眉を寄せた。
そのあとも、スニッチを追う俺をたまに狙ってくるブラッジャーが、そのたびに自ら方向転換した。
「獲ったあー!名前・名字がスニッチを獲得!グリフィンドールの勝利ー!」
スニッチを捕まえて、グリフィンドールの仲間達から背中を叩かれ、それに応えながら――俺は、スリザリンの観客席に居る、リドルを見た。
「 おいリドル、ちょっと面貸せよ」
「…随分とまあ、悪者みたいな台詞を吐くね」
「単刀直入に言う。――クディッチのとき、ブラッジャーが俺から避けてったのは、お前の仕業だよな」
――夜、人気のない廊下。
眉を寄せながら言った俺の言葉に、俺は、リドルがにっこりと笑うと思ってた。
そして、そうだよ、と少しも隠さずに言うか、なんのことかな、なんて、しらばっくれると思ってた。
「そう、だけれど…」
でも、リドルは少し、本当に不思議そうな顔をしながら、そのことを認めた。
「お前、何して…、なんのつもりでしたんだよ」
「…名前は今回、クディッチに勝てて喜ばないの?」
「…?じ、自分からブラッジャーに魔法かけといて何言ってんだよ?」
するとリドルは、眉を寄せた。
俺の脳内に、ひとつの考えが浮かぶ。
「なぁ、おい、もしかして――本当に俺のためを思って、ブラッジャーに魔法かけたとか、言わ、ねぇ、よな…?」
眉を寄せたまま首を傾げたリドルに、俺は思わず盛大に顔をしかめた。
「お、おい…!このあとに盛大なオチとか用意してんのか?いきなり落とすとか企んでんのか?」
「…名前の中で、僕っていったい何なんだ」
「いや、考えてもみろよ!お前の俺への認識って、玩具だろ?」
「まあ…確かにね」
「って誰が玩具だ」
「名前から言ったんだろ。…まあ、でも……多分、今は違うんだ」
「…」
「僕もよく、分からない…」
ほかにも本当は気づいてる奴が居るのかは知らねぇが、俺はリドルの作り笑い含め、リドルが、まぁ猫かぶってることが分かった。
だから今も、リドルが本当のことを言ってるってことは、分かる。
思わず笑うと、リドルはムッとしたような顔で
「原因の張本人がなに笑ってるんだ」
「原因…?いや、だってよ、まぁなんつうか痒いし、気持ちわりぃけど――う…嬉しいに…似てるん、だよ」
「―――……嬉しい?」
――前まで、リドルが俺を玩具っつうか、面白いものの対象として、俺で遊んでたことは分かってた。
不愉快だった。
なにより俺は気味わりぃ笑顔をはりつけるリドルが嫌いだったし、それも加わってリドルが嫌すぎた。
夏休みを俺の実家で過ごしてるあたりからリドルは、作り笑い含め、作った表情をしなくなってきた。
本当の、表情。
それに俺を面白がるのも、からかうに変わったっつうか…よく言えねぇけど、不快なものじゃなくなった。
いや、ムカつくけど。
――なのに今日の試合、ブラッジャーに魔法をかけたから、今までより怒ったイラついた。
…でも、何がどうなって、リドルがこうなったのかは知らねぇが、リドルは今日のクディッチの試合…俺のためにブラッジャーに魔法をかけた、らしい。
「って…!もう消灯の時間じゃねぇか…!」
「待ってよ名前、嬉しいって、」
「話してる場合じゃねぇ!とりあえず――」
俺は透明マントを取り出して、リドルと自分にそれをかけた。
「スリザリンの寮前まで行ってやるから、感謝しろ」
「…名前、背低いね」
「ァア゛?!…って、怒らせんな馬鹿リドル。――だから、もうブラッジャーにも魔法かけんなよ」
「…どういうことだい?君はさっき、嬉しいって」
「出来レースさせられて誰が嬉しいんだよ。ゲームでも何でも、ルールがあるから面白いっつうのに」
暗くなった廊下を、なるべく音を立てずに歩いていく。
まあ、イタズラ仕掛けや隠れ部屋探しで慣れてるけど。
「じゃあどうして、嬉しかったんだい?」
「おっまえ、本当に気づいてないのかよ…!」
息だけを言葉に乗せて、会話する。
リドルの本当に不思議そうな顔に、俺は、リドルから顔を逸らした。
「お、お前が俺のためにしてくれたって気持ちっつうか、…そ、それが、だよ」
ちくしょう馬鹿リドルアホ。
頭いいくせになにこんなとこで鈍さ発揮してんだよ。
…あー、くそ。
「っ…?!」
するとリドルに、いきなり壁に押しつけられて。
――驚きながら見上げれば、近すぎる距離に、リドルの顔があった。
「――名前、大好き」
「…は、…あ、……な?」
「ハァ、可愛い……ねぇ、キスしていい?」
111016