修了式が終わって、夏休み。
帰省の汽車、目くらましの呪文をかけたコンパートメントの中にいた俺は、その開かれるはずのないドアが横に引かれて、多分最近のなかで一番驚いた。
そしてここ最近は日常となったように、顔を歪めた。
「げえっ…リドル…」
「…君のその失礼極まりない反応は置いといてあげよう。それより、てっきり君はいつものように、彼らと楽しく家まで帰ると思っていたよ」
もう汽車は走り出していたから、通路をざわざわとコンパートメントの空きを探すやつらが通ることはねぇ。
それにこのコンパートメントは端で、向かいにコンパートメントがあるわけでもない。
けど気づかれねぇように、早くドアを閉めてほしかったことは確かだ、けど、なぁ…!
「…!オイ!くそバカリドル!入ってくんじゃねえ!」
なんでドアの内側、まぁつまりコンパートメントだ!に!お前が入ってきてんだよ!
「ハァ…名前、君は本当に僕と一、二を争う実力の生徒なのかい?今の罵倒の羅列はまさに馬鹿が使う…」
「おい聞いてんのか、早く出てけ!」
「――僕もいつも君と同じようにコンパートメントを隠していてね、ちょうど良かった、助かったよ、ありがとう」
俺の言葉を無視することに決めたのか、リドルは荷物を置くとにっこり笑って俺の向かいに腰を下ろした。
「テ、テメェなぁ、」
「どうしてそこまでこだわるんだい?今は人の目なんてないし、僕だって、君の嫌いな偽物の笑顔をはりつけてはいないのに」
ぐっと思わず押し黙った俺に、リドルは少しだけ不思議そうにする。
そうしてリドルの視線は、天井の荷物置きに――
「…!」
「――ねえ、名前」
「や、やべ…」
「なんであんなものが、ここにあるのかな?」
箒、隠すの忘れてた…!
「――…なるほど、ね」
リドルは開心術だか何だか、まぁつまりは嘘は通用しねぇみてぇで、俺の渾身の嘘はことごとく見破られた。
なんつーか…屈辱だ、意気消沈した。
ハァ、とため息をつきながら、俺は窓の外を眺めて、
「じゃあ俺、そろそろ行くから」
汽車から箒で飛び降りている場所が近づいてきたから、立ち上がって荷物を肩から斜めに下げ、箒をつかむ。
と、リドルの手が同じく箒をつかんだ。
「……?」
「――僕も行きたいな」
「――ダメだ」
「この箒折っちゃおうか」
「は?!何言ってんだ!」
いきなりのリドルの暴挙の言葉に目を丸くする。
そしてまた窓の外を見たら、もう直ぐに飛び降りる地点。
箒を離さないリドルと攻防を続けることは、タイムロスになると、――ここ最近で学んだ、から、俺は息をついて、リドルを見上げた。
「俺の親は、どっちも男だ」
――リドルが目を丸くするのは、初めて見た。
「つまり俺は、」
「名前は、」
「……」
「養子…ってことだ」
「ああ、だから――」
「前にも言ったはずだよ」
僕らの国じゃあ結構居るよ
「だから別に、差別なんてしないさ。心配しないで」
「…お前…」
「僕も行かせて、名前の家に」
111002