銀時の首根っこを土方さんが、神楽の首根っこを沖田さんが掴んで、引きずって。
そうして新八を近藤さんが担いで、部屋を出ていく。
「おい、核って…!」
「ああ、製造番号はまるで合っていた!」
「遠隔操作を調べるぞ…!」
すると徐々に、部屋のあちこちで会話が始まっていく。
それは伝染するように広まって――あっという間に部屋の中は大騒ぎになった。
手元のパソコンでキーボードを凄まじい速さで叩く人や、携帯で何やら声を上げながら部屋を出ていく人。
その混雑を特に気にせずに、私は踵を返して、辰馬のところへ歩いていく。
そして辰馬も、私の方へと向かって来ていた。
「辰馬、」
「名前、名前」
「…辰馬、大丈夫かい?」
すると辰馬に抱きしめられたので、そう問う。
「あの時と、同じじゃ」
「あの時…?」
「わしらがまだ攘夷をしていた頃に…灰色の髪の男が、名前を欲しがった」
――周りはうるさいくらいに混雑していて、ドア付近に居る私達の横を何人もが忙しなく通り過ぎていく。
けれどそんな中、どこかゆっくりと流れていると錯覚するような空気が、私と辰馬の空間を包んでいて。
震える辰馬の言葉に、私の脳裏で灰色の髪がうつる。
「――ただ、明日でも三日後でもなく…此処を襲撃しないという案もあります」
「私は襲撃を止める交換条件として、その利益を得たいのです」
「私の望みは…貴女です」
辰馬に言われてようやく、そういえば、と気がついた。
この状況は、あのとき…セイが私を欲しがった時とまったく同じ。
けれどセイは、誰かを傷つける前より先に、交換条件を持ち出してくれた。
――今は違う、そして、松陽先生の時も。
「大丈夫だよ、辰馬」
私は辰馬の腕をつかむと少し身体を離して、辰馬を見上げる。
「今回のは、団子を買ってくるよりも、簡単なことだよ」
そうして、にっこりと微笑んだ。
「今日この日、辰馬に会えてよかった」
「…わしは、今、こんな状況で…こんな状況に置かれた名前とは、会いたくなかったぜよ」
「ふふ、こんな状況だからこそ、私は会えてよかったよ、辰馬」
すると同僚に呼ばれた。
私はそっちを向いて軽く頷いてから、辰馬にまたにっこりと微笑み、そうしてその場を去っていった。
「――核は、仮面の者が述べた製造番号からしても、我々科学班が造った物とみて、間違いありません」
「遠隔操作も、出来なくなっていて…恐らく勝手に、変更されたかと」
――仮面の者がうつる大きなモニターがある部屋じゃなく、会議用の部屋。
科学班の人達の言葉に、松平さんは眉を寄せ、イラついた様子のまま
「それで、どうしてその核が今、攘夷浪士の手に渡ってやがんだ」
「わ、我々科学班も核の製造を頼んできた者に連絡を取っているのですが…どうにも連絡が、つかなくて…恐らくもう、始末されてるかと」
「それか、核の製造を頼んできたやつが犯人か、だな」
会話に参加せず傍観していた私は松平さんを見る。
流石、相変わらず鋭い。
「か、核の製造を頼んできた者が攘夷浪士を装って?けれど、使いの者が渡してきた書類には、Sクラスの判が押されていたんですよ?」
「それなのに核を交換条件にして、攘夷浪士を装ってまで名字を要求してきますか?なにも大っぴらに権力を示して要求してきても良いでしょうに」
その言葉に、昔、セイが居なくなったと知れば私に標的を変えた天人を思い出す。
「こんな美味しい話…他のゲス共に聞かれては敵わんのでな!」
さすれば自然と、その天人の最期の姿も思い出されて、腕を強く握りしめた。
「やはり、高城が誘拐された時の攘夷グループの残党で間違いないでしょう、仮面の者も自らそう名乗ってますし、なによりあの時場に出て、結果的にグループを壊滅させることとなった原因は、名字ですから」
「だから、報復の為の要求にのこのこコイツを差し出せってか!」
声を荒げながら足で机を蹴り飛ばした松平さんに、部屋の中の人達が肩を揺らす。
私は一歩前に出ると、そんな松平さんを真っ直ぐに見て
「しょうがありませんよ、松平さん、それにまだ、報復が目的だとは決まってません」
ほかの人からすれば、松平さんを宥める為に下手な嘘をついたな、とでも思われているかもしれない。
けれどこの私の言葉は別に、嘘じゃあない。
「とりあえず、行かなければ核の危険性は消えません」
サングラスの奥の松平さんの目を真っ直ぐに、見つめた。
「船の準備をお願いします、私は要求に、応えますよ」
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