部屋の中が静まり返る。
モニターなのか、部屋の中の多数のパソコンやらの機械からなのか、細かい電子音だけが一定に横に連続している中、部屋のすべての者の視線が私に向いている。
私は変わらず、モニターに映る、笑顔の仮面の目を見つめていた。
もちろん、仮面の者の本当の目は見えないけれど。
「――テ、メェ…!」
――すると怒りに震えた声がドア付近から聞こえて、周りの人達が我に返ったようにそっちを見やる。
私も向いて、そして、こっちに向かって走って来ている銀色に、私はようやく、目を見開いた。
「銀時」
「おい、テメェ、名前!」
走ってきた銀時に、胸ぐらを掴まれる。
引き寄せられて、踵が浮く。
近距離の銀時の顔を見て、最近私は、銀時のこんな表情しか見ていないな、とボンヤリと、けれど状況的には冷静に、思った。
「名前、テメェ、知ってたんだろ!お前が、いつかこうやって、わけの分からねえ呼び出しをされることをよ!」
「…どうしてそう思うの?」
「ここ数日の、お前のこと、それに今の、まったく動揺してねえ態度からだ!」
銀時は歯を鳴らすと、私の胸ぐらを掴む力を強くした。
着物と一緒に髪も巻き込まれているのか、引っ張られるようになって、少し痛い。
「ンで、お前は…!何も言わねえんだ!なんで、頼らねえ!なんで…嘘で隠す!」
銀時の瞳を見つめて、そうして周りに視線をうつす。
フウ、と息をついてから銀時を真っ直ぐに見上げた。
「知らなかったよ、銀時、私は知らなかったんだ、まさかこんなことが、起こるなんてね、予想もしていない、驚きすぎて、言葉が出なかったんだ」
「だから、どうしてテメェはいつもそう…!」
「警備員さん、この彼をここから出してくれませんか」
銀時が目を見開くと同時に、その瞳で怒りが燃える。
私はその瞳を気にせず銀時の向こう、ドア付近で固まっている神楽と新八を見る。
――辰馬が居たことには、少し驚いた。
けれど直ぐにまた顔を、警備の人達に向けて
「ドアのところに居る子供二人も、合わせて部外者です。特に今はこの状況、ここに居させておくわけにもいきません」
…とは言っても、警備の人達が銀時を、そして神楽や新八を取りおさえられるかと聞かれれば、簡単に肯定は出来ないね。
なにしろ今の、頭に血の昇った銀時を…いや、もしかしたら冷静さを欠いているから、裏をつきやすくなっているだろうか。
――すると意外な人物が、銀時の後ろに現れた。
銀時が振り返り攻撃するよりも先に、その人は刀で銀時の首の裏を強く叩く。
その容赦の無さに、周りの人達の顔が思わず歪んでいた。
「土方さん、来ていたんですね」
「ああ、たまたま呼ばれててな」
気絶して傾いた銀時の身体を受けとめることもせず、というか逆に蹴り、床に転がした土方さん。
いつものように煙草を吸いながら、後ろを親指で差す。
「油断しすぎでい、チャイナ娘」
「悪いな、新八君」
そこには神楽を沖田さんが、そして新八を近藤さんが、同じように、気絶させていた。
「ありがとうございました、助かりましたよ」
「別に、まだ何も助かってねえだろ」
お礼を言うと土方さんは、モニターに変わらず映る、仮面の者を見る。
「それに、勘違いするなよ」
つられるように私もモニターを見ようとすると、けれど直ぐに土方さんがまた私を見たから、視線を戻す。
「今はこのままじゃ話が進まねえからこいつらを気絶させたが――俺は今回ばかりは、こいつらの側だぜ」
「ンで、お前は…!何も言わねえんだ!なんで、頼らねえ!なんで…嘘で隠す!」
「おや…悲しいですねえ」
私は目を細めて、微笑んだ。
111227