「――――……」
――土に刺さった小刀を抜いて、そのままゆっくりと立ち上がる。
上体を起こしたとき私の服を掴んでいた銀時の手が、それを引き止めることはなかった。
髪が流れて、視界をおおうのを少しだけ直して、私は銀時たちへと背を向ける。
「名前…」
「…何度言ったら…――」
眉を寄せて神楽を振り返ると、そのまま目を軽く見張って固まった私に、神楽たちが遠慮がちに疑問符を飛ばす。
「さっきも言ったよね、いい加減君たちが鬱陶しくてかなわないんだよ」
そういえば…――どうしてだ…?
夢中になっていたから気づかなかったけれど…――どうして「誰かさん」は、銀時達を撃たない……?
「お姉さん、綺麗ッスね」
「ね、遊びましょうよ」
「他の女のためにあそこまで必死になる銀さんなんて、見たくないのよ。それなら早く、あなたを見つければいいだけの話でしょ」
――あの男性二人…そしてさっちゃんよりも、「誰かさん」にとっては、撃つ時間が長くあったのに…。
…ここに居る、銀時、神楽、新八、晴太、月詠の全員が、「誰かさん」にとって撃てない対象だとは、考えずらい。
それならいったい、どうして――。
――核が、完成した。
「――――……!」
「名前…さん…?」
そうだ、どうして今まで気づかなかった…!
――「誰かさん」と、核を所有するであろう者は、同一人物に決まってる…!
盗聴器を仕込んだ携帯を私に持たせ、核の素を手に入れるように命じて、高城さんら科学班に核をつくらせた…!
…そして、高城さんから核についての連絡が来た今、ここに私を狙う「誰かさん」は居ない…。
――もし、どこかでこの核が使われたとき…私はいったい、どう思うのだろうな…。
核の素を、手にした私…。
…まあ、そんな事態が起こる時まで、私が「ここ」にいるとは考えにくいけど。
「…ハッ」
核がどこかで使われる?
そしてそんな事態が起こる時にはもう、私は居ない?
馬鹿か私は。
「名前、待つ、アル…!」
途切れるような神楽の言葉に、立ち止まって、振り返る。
「――…こっちへ来ちゃ駄目だよ」
微笑んで、路地の暗がりに身を染めた。
111017