「俺は、お前が昔からどう思ってたかより、もっと気になってることがあんだよ」
うつむきながら、目だけで、銀時を見る。
「なんで最近になっていきなり、言ったんだ」
「――――……」
「お前は、どうせ生きるなら楽しく生きるって、よく言ってるな。それは分かる。そして楽しく生きるためかは知らねえが、大抵のことは綺麗に笑って受け流してる」
…そう、『生きる』ということは、それだけで最早つらいこと、大変なんだ。
ならば、どうせ生きるなら、楽しく生きたい。
…人によって、楽しい事柄や、悲しい事柄は違う。
私にとって喧嘩や、誰かと関係が悪くなることは、楽しいことじゃない。
絶対に。
「けどお前は、いきなり俺達との関係を悪くさせた」
『生きる』ために、私は人生を楽しくさせていた。
「まさかとは思うがよ、お前…――死ぬことを考えてんじゃ、ねえだろうな…!」
銀時の声が低くなって、抑えきれない感情が息となり、言葉を揺らして告げられる。
目は鋭くて、眉は寄せられて、――こんな銀時は、久しぶりだ。
「「死んでもいい人間なんて、居ないんですよ」」
ぼそり、過去の言葉を、現在という場所で言う。
銀時らには聞こえなかったようで、微かにみんな、眉を訝しげに寄せた。
――松陽先生、やっぱり私、駄目ですよ…。
先生の言葉、分かるようで、分からない…。
小刀を右手に構え、そのまま銀時へと向かっていく。
「「ちがうよ、そんなの!死ぬべきにんげんは、いるよ…!」」
ぼそり、ぼそり。
言いながら銀時の首元目掛けて刀を振るう。
木刀で、防がれる。
「「だってわたしは、今のあまんとだけじゃない…!父と、母を……!」消したんだ」
消した、と、言葉にきちんと枠を取らせて言霊として言えば、銀時は目を見開いた。
そうして私の瞳を見ると、ひゅっと息をのむ。
「お前ら!下がってろ…!」
そうして神楽たちに告げた銀時の、その隙を逃さずに、右手で刀を振るった勢いのまま身体を右下に回転させ――
「ぐっ…!」
銀時の首元に蹴りを入れた。
そして右下にかけていた重心のまましゃがむと、銀時の足をつかんで自分の側に引っ張る。
さっきの蹴りで少しよろめいていた銀時の身体が傾く。
「「せんせいはダメだよ…!――死んじゃダメ…!!」」
「な…っ、にをさっきから聞こえねえ声でベラベラ言ってやがる!」
抵抗しないまま傾いていく銀時を地面に倒そうと、左手で銀時の腹の服を掴んだとき、
「伝えたいことがあんなら…!」
逆にその腕を引かれ、そして首の服を引かれ――ドサァッと、銀時の上に乗るような形で私も一緒に倒れた。
「ちゃんと言葉にして、伝えてきやがれ…!!」
「――…「生きなきゃいけませんよ、名前」」
「っ…だから、!」
銀時に首の服をつかまれたまま、着物が乱れるのも構わずに、未だ右手につかんだままだった小刀を振り上げる。
そしてそれを、銀時の頭に目掛けて――
「名前さん!!!」
「銀ちゃん!!!」
「 」
――ザンッ…!…と、断ち切るような音が響く。
――刀は銀時の頭に刺さることはなく、銀色の髪の毛の先を少しだけ、切った。
「お願い、だから……もう私に、関わらないでよ…」
左手も刀に添え、すがりつくようにして――言った。
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