「お前だって、大事な人間を殺した奴には協力したくないだろう?だから傷つけるだけでとどめてやったのさ」
――最初に撃たれた男二人はよく分からない…けれど、あのときと同じならば「誰かさん」は私を殺さない。
私の脳、思考が欲しいから、殺しては意味が無い。
だから脅しの対象として――大切な人達を傷つける。
「名前…な、なに、言ってるアル、か…」
「つまり、もう私にかかわらないでくれ、――と、そういうことだよ」
――言うとおりにしなければ人質をコロス……このよくある手口が起こってしまう前にとれる対処法は、ふたつ。
「大丈夫ですよ、何も心配いりません」
ひとつめは、それでも大切な人を護り抜くこと。
…けれど、それは――私には出来ない。
ならば取るべき選択肢は、二つ目しかない…。
「さっきも言ったよね、いい加減君たちが鬱陶しくてかなわないんだよ」
神楽や新八――みんなのことを「誰かさん」に、私の大切な人だと思わせないことだ。
大切な人だと認識されなければ、「誰かさん」がみんなを狙うことはない。
人質の価値に値しないから。
「なに…言ってるんですか名前さん!いきなりっ…!」
「いきなり…?違うさ、ちゃんと兆候を見せた筈だよ。げんにさっき、わたしは君達を避けようとした」
だから真選組の屯所からも早く出たし、さっちゃんからも、早く離れようとした。
他人なんだと、関わりはないんだと「誰かさん」に見えるように、分かるように。
「――銀さんが、あなたを探してるのよ」
それでも――皆が離れてくれなくちゃ、意味がない。
私がみんなを避けても、何度も何度もみんなが私の前に現れたなら…「誰かさん」はみんなに目をつける。
「あからさまに避けられていると分かったろうに…それでも追いかけてくる、そんな君たちが鬱陶しいんだよ」
それならば私は――みんなに嫌われればいいんだ。
嫌うものには、近づかないだろう?
嫌うものは、大切な枠の中には入らないだろう?
私も皆が大切じゃない、皆も私が大切じゃない。
それなら皆は、危険に巻き込まれたり、しないだろう…?
「それだって、ついさっきのことじゃないですか!いきなりですよ!やっぱり何かあったんですよね…?!」
「…仮に何かあったとしても、私は前から、君達から離れたいと思っていたよ」
「……!」
「ただ、言わなかっただけだよ…ずっと、前からね…」
「しかし…わしを帰してくれたアイツは…心が壊れてしまいそうになり心配してくれてた大切な人に話し、…全て、無くした…!」
大切なものを無くす痛みは、つらすぎる…。
ずっと隣で、支え合って生きていく――そんな大切な枠の中の人間を、失う…。
「っ、そんなの…名前姉と離れるなんて嫌だよ!」
「私と離れることなんて、どうでもいいだろう」
「よくないよ!名前姉はおいらに、大切なことを教えてくれた、大切な人だ…!!」
「…嘘吐きの言葉は信用しちゃいけないよ、晴太」
「…今何かを失ったのなら、次に取り零さなければ良い。それだけだよ」
無くす痛みを知っているのに再び大切な人をつくるのには、大きな勇気がいる。
また失うかもしれないという恐怖に、打ち勝つための。
自分じゃない誰かにはいけしゃあしゃあと言っておいて、私自身はしないんだ。
――神楽、新八、晴太の私を見る目に――自分でも今、自分の感情が分からなかった。
そして、分かるわけには、いかなかった。
「私は皆の大切な人にもなりたくないし――皆を大切な人だとも、思っていないよ」
「あなたたちは、私が必ず、守りますから」
やっぱり私は、貴方みたいに強くはなれませんよ…――松陽先生――…。
110921.