――さっちゃんと離れてから私は路地裏を宛てもなく歩き続けて、そうしてこめかみから拳銃を下ろした。
「誰かさん」が私と接触を望まないかぎり、簡単に姿を見せるような真似、しないとは分かっている。
けれど私は膝に拳銃を戻し、見つからないとは分かっていても上を見上げた。
そして、空がいやに遠いことに気がついた。
「――吉原…」
薄汚れたビルの間の狭い道を下だけ向いて歩いていたら、どうやら吉原に入っていたらしい。
ここはまだ端みたいだけれど、少し遠くには吉原特有の看板やらが、赤く染まり始めた空に存在感を出している。
「――核、か…」
ほんの少し前に吉原へ、核の素を取りにきたときのことをふらりと思い出して、そして再び携帯を取り出した。
その場に立ち止まって携帯を操作し、開くのは高城さんからのメール。
起爆装置を押してから、四十五分で爆発……遠隔操作も可能、か…。
携帯を閉じしまって静かに、息をついた。
――もし、どこかでこの核が使われたとき…私はいったい、どう思うのだろうな…。
核の素を、手にした私…。
…まあ、そんな事態が起こる時まで、私が「ここ」にいるとは考えにくいけど。
ひとりで自嘲気味に笑うと、
「名前!!」
「名前さん!」
いま自分が居る空き地のような場所に、横の太い通りからした声が響き渡る。
――神楽と新八と、目が合ってしまったことには気がついていたけれど、私は呼ばれたことに応えることはせずに、
「っち…!」
路地裏に再び戻ろうとして、舌を打った。
――さっちゃんと離れてから、私は一本調子で歩いていたわけじゃない。
幾重もの分かれ道を右へ左へ歩いていた。
つまり「誰かさん」がさっちゃんを撃った時に、私の前にいたとしても後ろにいたとしても、私が歩き始めてからは、私の後ろにいる筈…。
私が路地裏から去ろうとすれば、必ず神楽と新八もあとを追ってくるだろう。
狙いは私なのに、彼らを撃ったんだ
ぐっと眉を寄せて、二人とは違う、そして路地裏でもない道から去ろうとする。
「――名前姉!」
するとその道の先から晴太が走ってきて、月詠もいて――思わず足をとめる。
そうした間に神楽と新八に近づかれ、腕をつかまれてしまった。
「やっと見つけたヨ!今までどこ行ってたアルか!」
「前みたいに勤め先に連絡しても休みだって言われるし、僕たち、名前さんの家も電話番号も知りませんし…!」
晴太も、月詠も、こっちへと向かってくる。
「名前姉、心配したんだよ!銀さん達から、よく分からないけど話を聞いて…!」
「とにかく、見つかってよかった。今銀時に連絡を――待ちなんし!名前!」
私は神楽と新八の手を振り払うと、四人を無視して歩きだした。
「待ってヨ名前!どこ行くアルか!」
そうして、追って、再びつかもうとしてきた神楽の手を、バシッ、と乾いた音で、たたき払う。
目を見開く神楽を、出来るだけ冷たく、見据えた。
「いい加減、鬱陶しいんだ」
110920.