携帯のバイブ音が鳴り、携帯を取り出して画面を見る。
高城、と表示された画面を数秒見つめてから、耳に近づけ、通話ボタンを押した。
「――もしもし」
「よぉ、邪魔したか?」
「…本当に高城さんですか」
「ははっ、なんだよ、また拐われたとでも思ったか?」
「いえ…まあ…そうですね」
少しの機械音の向こうの、高城さんの笑い声を耳元で聞きながら、近くの壁に寄りかかる。
路地裏の道の少しひらけた場所には、私の行動する音だけが響く。
「それよりお前、いきなり有給とったな、しかもかなり」
「はい、今まであまり使っていなかったので……ところで高城さん、どうされたんですか?」
「ああ…ま、一応お前にも報告しとこうと思ってな」
――核が、完成した。
「…そうですか」
「…核の詳細は、パソコンの方からメールで送っておいたから、気になったりしたら見とけ」
「…ありがとうございます」
「――じゃあな、有給、たっぷり堪能しろよ」
はい、ともう一度言うと、切れる電話。
料金などが表示される画面を消すと、確かにメール一件、新着情報が出ていた。
それを確認せずに携帯を再びしまう。
そして廃虚となったビルの上を見上げた。
「――何やら音がしたかと思って見上げれば」
宙に身を投げ、私の前へと降り立ったムラサキ。
「また随分と久しぶりだね、さっちゃん」
「…ええ、久しぶりね」
「君とは一度しか話したことはないし、私の記憶に違いがなければ、の話だけれど――確か私は君に、初対面から良い印象は持たれていなかったよね」
「…そうよ、別に今だってそれは、変わってないわ」
ハッキリとものを言うさっちゃんに、目を細める。
「ならば顔を合わせるのは、誰の為にもならない」
「……」
「君はもちろん嫌だろうし、ふふ、わたしも、もし決闘なんてものを持ち出されるのは御免だからね」
そうして身を翻すと、再び、先へと歩きだした。
「――銀さんが、あなたを探してるのよ」
ざりっ、思わず足がとまる。
「もう二日…あんなに必死な銀さん、初めて見たわ」
――この場にいるのがさっちゃんだけだったのなら――私はいったい、どんな表情になっていただろう。
さっちゃんは後ろにいて、私の顔は見えない…。
けれど「誰かさん」がどこに居るのか分からないから、私は表情を、変えない。
「他の女のためにあそこまで必死になる銀さんなんて、見たくないのよ。それなら早く、あなたを見つければいいだけの話でしょ」
――すると数日前と同じように、銃声が――けれどサイレンサーが付いていた。
息をのんで振り返ると、足から血を出し、前屈みに倒れこんでいるさっちゃんの姿。
――何か感情に包まれる前に、膝の拳銃に手をかけた。
「なに、して……」
足をおさえながら私を見上げたさっちゃんが、言葉を途切れさせる。
私は、――自身のこめかみへと銃の先をあてたまま、さっちゃんの前に膝を折った。
「……ごめんね」
「っ、……っ、名前、」
「ねえさっちゃん、もう銀時へ連絡はしたかな」
「…っ、名前…!」
私の顔を見つめたまま目を見開いているさっちゃんに、もう一度謝って、さっちゃんの携帯を拝借する。
発信履歴を見て、それからメールの送信ボックスを見ると、数分前に、この場所が書かれたメールが、銀時宛てに送信されていた。
「もう直ぐにでも銀時が来るだろうから、それまで痛いだろうけれど…ごめんね」
「名前…っ、あなたいったい、何が…!」
言葉を遮るように私は、さっちゃんの眼鏡を外した。
「――目はね、さっちゃん」
「なっ、なに…?!」
「見るためのものであると同時に――」
そうして素早くさっちゃんの首の裏に拳銃を回すと、強く殴った。
「見ないためのものでも、あるんだよ」
――倒れるさっちゃんの頭を手で支えて、優しく地面に下ろす。
再び拳銃の先を自身のこめかみの先へとあてて、歩きだした。
110919.