しゅる、と自分の腕に巻かれていく白い包帯が、窓から差し込む夕日の色に包まれている。
「ありがたいですね、まさか土方さん直々に手当てをしてくださるなんて」
「…何があったかは知らねえが、随分と下手になったじゃねえか」
「ああ、確かに避けられたかもしれませ…」
「違う、そうじゃねえ」
真選組の屯所へと連れてこられる少しまえ、――前にも一度あったけれど、攘夷浪士かはたまた盗人、強盗か…人質を取った事件に遭遇した。
そして、怪我を負った。
――怪我のことじゃないのかと土方さんを見上げると、彼は真っ直ぐに私を見ていた。
「笑いかただ」
――私は微かに目を見張る。
それが土方さんに気づかれていたかは、分からない。
「…そんなことは」
「ねえ、ってか?嘘も下手になったみてぇだな」
「…気のせいですよ」
「――…まあ確かに、あの刀を避けられなかったことも、不思議だがな」
視線を、腕にさげる。
「お前は確か、怪我がキライだったな」
「…おや、土方さんは怪我が好きとか、そういう趣向のかたでしたか?」
「違ぇ、話を逸らすな」
「逸らしてなどいませんよ、発展させただけです」
はぁ、とため息をついた土方さんが、真っ直ぐに私を見るのが分かった。
「――なんで避けなかった」
けれど私は、変わらず自分の腕を見ていた。
「…避けられない、とは考えないのですか?」
「さっき言っただろ、避けられたかもしれないって」
「かもしれない、ですよ。結局は避けられなかった」
張りつめた雰囲気など関係無しに、夕日は変わらず全てをあたたかく、或いは無慈悲に、呑気に、つつみこむ。
「お前が怪我が嫌いなのは」
「そりゃあもちろん、痛いからですよ」
「ああ、だけどまだあるだろ、理由が」
「――…怪我は、治すことも辛いですから、…ね」
「そうだ、なのにお前は、避けなかった」
包帯を巻き終えた土方さんが、手をとめた。
「お前が怪我を享受するときは、治す必要が無いとき」
「つまり――死を覚悟したとき……死ぬならば、治す必要は無いですからね」
「おい」
「なんでしょうか」
「……死にたいのか」
――心臓が、重く動く。
「…私はただ、土方さんの言葉の先を予測し、添えただけにすぎませんよ」
「……」
「それか、私が痛みを好きになったとも、考えられる」
ふふ、と笑みをこぼした。
「それに私は避けなかったんじゃなくて、避けられなかったんですよ、土方さん」
今度はちゃんと、上手く、笑えているだろうか。
「手当て、ありがとうございました」
そうして腕を引き、立ち上がろうとしたとき――土方さんに、包帯が巻かれた部分を少し強く、つかまれた。
思わず眉を寄せ顔を歪める。
「土方さ…」
「なら、怪我することは変わらず、嫌いなんだな」
「……」
「痛みを与えようとすれば、話すか?お前を、おかしくさせてる何かのことを」
――瞬間、部屋の横から爆音が聞こえたかと思えば、襖が吹っ飛び、それが土方さんに直撃した。
「死ねよ土方このやろー」
「総悟テメッ、待っ…!」
「追撃ー」
「テメェエエエエ!」
言葉どおり追撃として、沖田さんが土方さんに向けて、次々とバズーカを撃っていく。
土方さんは、壊れた窓から出ていった。
――沖田さんが、私の前に膝を折る。
「大丈夫ですか、名前さん」
「流石は鬼の副長とよばれるだけありますね、彼は」
「嫌だなァ、今から副長は俺のことですぜ」
そうして親指で、窓の外を指した。
「あんなんだから、女にモテねえんでさァ」
私は薄く笑みをこぼして、沖田さんの頭に手をおき、柔らかい髪を撫でる。
「――ありがとう」
――沖田さんは微かに目を見張ると「姉上…」と言葉を漏らした。
「え…?」
「あ…い、いや、…何でもありやせんぜ」
「…?そうですか」
「もう行くんですかぃ?」
「はい、少し…用事がありましてね」
真選組に大人しく連れてこられたのは、事件に巻き込まれ手当てを受けるだけの関係に見えるかと思ったから。
「誰かさん」は既に交友関係など調べているかもしれないけれど…長居は無用だ。
110919.