「ヅラッ!!」
「ヅラじゃない桂だ!それにしても今日はいい日だな、旧友が二人も」
「名前が…っ、って今お前なんつった、旧友?」
「ああ、少しまえに名前も俺を訪ねにきたぞ」
その言葉に銀時は目を見開き、小太郎の肩をつかむ。
「名前、なんつってた、なんで来たんだ!」
「お、おいどうした、そんなに必死で」
「いいから、早く言え」
「…名前は――」
「小太郎、少し、聞きたいことがあるんだ」
「ああ、どうした?」
「――昔……寺子屋のときのことなんだけれど……私たち生徒の何人かが、役人に意味も分からず斬られたこと…覚えているかな」
「銀時、お前も覚えているだろう」
「…ああ、確かヅラ、お前も斬られてたな」
「ヅラじゃない桂だ、…まあ皆、斬られていたといっても足や手…ただの役人の憂さ晴らしだろう」
「……」
「だとしても、嫌なことは続くものだと、よく言ったものだな。…現にあの後に、」
すると後ろから走る足音が聞こえてきて、会話は途切れ、二人は後ろを見やる。
「銀ちゃん!」
「名前さん、見つかりましたか?!」
走ってきたのは神楽と新八で、汗を流し、息を切らしている。
そんな二人の様子と言葉に、小太郎が身構えた。
「名前に何かあったのか?」
「――分からねえ、俺達にも、何が起こってんのか」
「…それは、どういう…」
「ただ」
「……」
「アイツに何かが起きてることは、間違いねえ」
脳裏に浮かぶのは、微笑みをたたえた名前の姿。
そして銃声が響き、目が合った時の名前の表情。
――微笑みを重ねて重ねて、隠されている弱い部分。
本当の、姿。
知りたいけれど、知るには躊躇するくらい、傷つきやすいであろう中身。
それが突然、不意に、何の前触れもなく見えた。
逃げて、隠れて、いなくなってしまった名前を、早く捕まえたい。
また微笑みを重ね、固い殻で隠されてしまう前に。
「そうそうついでに、さっちゃんも連れてきたヨ」
「名前さんを探している途中に、会ったんです」
すると屋根の上から、さっちゃんが音もなく下りてくる。
「他の女のために呼ぶなんて、また随分とSじゃない」
そうして眼鏡をかけ直すさっちゃんの表情も、軽口をたたいているけれど、いつもとは違って見える。
――銀時は、己の前に並ぶ面々を見据え、目に焼きつけると、強く目を閉じた。
「大切な人が出来たら、また輪が広がって大切な人が増える。大切な人が増えたら、取り零しちゃうものが増える。―…けどね、銀時にとって大切な人は、銀時の大事なものを一緒に守ってくれる」
そうしてゆっくりと開くと、真っ直ぐに見据え、口を開いた。
110919.