走って走って、人の波を抜けて、路地裏に入りこみ、ダンボールや捨てられた家具が周りにある中、廃虚となったビルの壁に寄りかかる。
「っ…は…っ、はぁっ…!」
壁の冷たさを背中に感じながら荒く息をする。
どくどく、早鐘のように鳴り響く心臓が感情までもを急かして、胸がつまってくる。
「…は、っ……、っ」
そのままじゃ、頭がおかしくなりそうで。
なるべくきちんと息をして、ぎゅう、と腕を握りしめる。
「――――……っ」
そして、ずる、ずるっ、と地面に座り込んだ。
膝をかかえて、ダンボールや捨てられた家具からはみ出さないよう、見えないよう、ぎゅうっと縮こまる。
まだ少し荒い呼吸をしたまま、ついさっきの情景を、頭の中で振り返る。
――絡んできた彼らと私は、隣並んで歩いていた。
結局…どこから、誰が撃ってきたのかは分からないけれど――もし狙撃手が前か後方にいたのなら、確実に狙いの人物を撃ちぬける。
余程下手じゃ、ないかぎり。
だから、狙撃手が前か後方にいると仮定したならば、その狙いは確かに、あの男達。
けれどそこで、疑問が生まれる。
彼らは足を撃たれたからだ。
足を撃つ場合は、単純なこと、殺しは目的じゃない。
そしてさらにあるとすれば、足を封じて逃げられないようにする――生け捕るためだ。
けれど少なくとも私が場所にいた時間、人々が逃げまどう時間があった、あのとき。
そんな人物は来なかった。
そしてもし、狙撃手が、左右どちらかに居たとしたなら。
その場合、並んで歩いている三人の人間のうち、真ん中の人間の足を撃ちぬくことは確かに難しい。
けれどその後、私の両隣、二人とも倒れたんだ。
右からでも左からでも、狙えるようになっただろう。
――歯を食いしばる。
腕の着物が、握りしめられて持ち上がった。
ここから導きだせる結論は、狙われたのは彼らじゃない。
ならば、狙いはわたしだ。
けれど、撃とうと狙った人物は、あの男ふたり…。
「っ…く、そ…!」
つまり、狙いは私なのに、彼らを撃ったんだ。
手で髪をぐしゃり、つかむ。
けれど逆に、頭皮にささる爪の痛みが、さらに自分の感情を沸き立てた。
っ…誰が、何の目的でこんなことをしてるのかは、分からないけれど…!
狙いは、わたしなんだ…!
ならば最初から…――!
「最初から、私だけを狙えば良いでしょう…!」
ハッ――と、息をのみ、顔を上げる。
――記憶の奥底…無意識か、意識的にか、しまいこみ、無かったことにしていた情景の一場面が、急にデジャヴのようにリンクする。
ドクン…!心臓が鳴る。
走った後の少しの汗が、身体を冷やす。
「っ…ま、さ…か…」
――もし本当に、そうなら…
うるさい心臓を無視して、立ち上がった。
110918.