――名前が窓から去っていって少し、微かに眉を寄せ窓の方を見たままの銀時に、新八が首を傾げる。
「どうかしたんですか?」
「…なんかおかしくねえか」
「心配いらないネ、銀ちゃんの頭だったら、年中おかしいアル」
「俺のことじゃねーよ!つか、いつまでこうしてんだ」
そうして銀時は押し入れから出ると、窓のほうへ歩いていき、下を見た。
「おかしいって…まさか、名前さんのことですか?」
「ああ、わざわざ窓から入ってきた理由が分からねえ」
「確かに、名前って楽しいこと好きだけど、窓から入ってくるのは名前、普通ならやりそうにないネ」
新八がポン、と手をたたく。
「そうだ!それに名前さん、よく分からないけど、サプライズって言ってました。けどそれなら、帰りも窓から帰る必要、ないですよね」
「…まあアイツは嘘がうまいからな、適当な言葉ならいくらでも出てきやがる」
銀時は少し考えるように眉を寄せると、玄関に向かった。
「ちょっくら行ってくるわ、お前ら留守番…」
「名前さんを追いかけるんですよね?」
「銀ちゃん一人だけは狡いアルヨ!」
バタバタと走ってくる神楽と新八を見た銀時は、少し目を丸くし、そして笑った。
「わーったよ」
――万事屋銀ちゃんを出てから、また表道に戻る。
けれど私はいま、その数分前の自分の行動を少し、後悔していた。
「お姉さん、綺麗ッスね」
「ね、遊びましょうよ」
「ごめんね、用があるから」
「ツレないなあ〜」
自分の両隣を歩くのは、名前も知らない男ふたり。
まあ、所謂ナンパだ。
――人波多いかぶき町。
その人波をぼんやりと眺めながら、さてどうしようかと思考していた、次の瞬間――
二発、銃声が響いた。
その瞬間、世界がスローモーションになる。
ドクン…!と動く自分の心臓の音。
だんだんと目を見開いていく通行人。
そして――
「いっ…てえ…!」
どさり、両隣を歩いていた男ふたりが、倒れる。
その音を皮切りに、世界が時間を、取り戻した。
「何だ?いまの音…!」
「銃声だ!」
「人が、倒れてるぞ!」
「足から血が出てるわ!」
女の、甲高い悲鳴。
男の、低い叫び声。
走り、乱れる人々。
その状況の中、私は身体に力を入れ、辺りを見回した。
――な、んだ、いまの…!
なんで、銃声が…!
…っ、いやそれより、なんで、この二人が…!
右上のほうを見やる。
この二人は見たところ、一般人だ、手に、刀のタコも銃のタコも出来ていない…!
左上の方を見やる。
ならやっぱり、この二人が撃たれた理由は…!
そして私は後ろを振り返り――目を、見開いた。
また再び、世界がスローモーションになる。
叫び逃げる人々の波。
乱れる人の向こう側に、動かない男がひとり。
呆然とした表情で、真っ直ぐに私を見ている。
黒髪が次から次へと入り乱れる中、動かない銀色。
――銀時と、目が合った。
向こうから、驚いた顔の神楽と新八が、銀時へと走り寄ってきている。
銀時から目が離せない、スローモーションな世界の中で、けれど私は一瞬で、ある考え――真実であろうものが、浮かんだ。
考えが浮かんで、理解した瞬間、私は踵を返す。
銀時の顔がゆっくりと歪んでいって、目が見開かれていって――
「名前!!!」
再び時間を取り戻した世界の中、私は人の波の中を必死で走る。
――あの男ふたりが撃たれた理由…それは、きっと――
きっと『誰かさん』は、あの携帯に盗聴器を仕掛けていたんだ。
私の近くに、居たからだ。
110916.