神楽の話を聞き終えて、私は思わず眉を下げて微笑んだ。
「神楽が血の繋がりを大切だと思っているなら、それでいいんじゃないのかな」
「…分かってるアル、…でも、名前は違うんだよネ?」
「私と神楽は違う人間だからね、考えも違うよ」
言うと、神楽はうなずく。
けれどそのまま、どこか床でも見つめながら眉を寄せ下げていて、とても納得したふうには見えない。
「血の繋がりに、あまり意味は無いよ」
前に、晴太とはじめて会話した時に、そんなようなことを確かに言ったし、確かに、そう思っている。
腕を組むと、神楽が顔を上げないままに口を開く。
「私には、兄貴がいるネ、馬鹿で強い、アホ兄貴」
「…うん」
「馬鹿だから、知らない間にどんどん変な方向に行ってたアルヨ、…アイツは、それがいいんだろうけど」
そう遠くもない昔、初めて神威に会ったころ。
神楽と血の繋がりがあるかもしれないと、そう思ったことは、強ち間違ってはいないかもしれない。
今は夜兎の数も、少ないし。
「私、あの馬鹿兄貴をとめたいネ!…でも、晴太と会ったときに、名前が言ってた、ってことを聞いて…分からなくなったアル」
「分からない…?」
「血の繋がりが大事じゃないなら、…なんで私は、アイツをとめたがってるのか」
私は首をかしげた。
「簡単なことだよ、神楽が、お兄さんのことを大事だと思ってるからでしょう?」
「…でも、血の繋がりは大事じゃないって」
神楽の言葉に、目を伏せる。
「家族が、イコール大切に繋がるとは、限らないんだよ」
「父と母は、じぶんのことなんて、ただの道具だとしか思ってませんよ」
「あとつぎのために、じぶんを産んだ」
「じぶんは、父と母の位につける、かざりでしかない」
「だからじぶんも、おやだなんて、思ってないです」
「ていうか!別に私は馬鹿兄貴のことを、大切とかは思ってないアル!ただ、ムカついてるだけヨ!」
神楽の声で、少しの微睡みから浮き上がった私は、顔を上げて微笑む。
「ふふ、嘘つきだねえ」
「名前に言われたくないネ」
「おやひどい、銀時のもとに居る内に、毒牙にかかってしまったか」
すると押し入れが開いた。
「だれが毒牙だ」
「ふふ、おかしいね、確か銀時は神楽に、耳を塞ぐよう言っていたはずなのに」
「げ!」
「ちょっと銀さん!」
顔をひきつらせた銀時と慌てる新八に、照れ隠しなのかウガアアと吠えながら、神楽が向かっていく。
狭い押し入れの中で、襖が外れるのにも気がつかず暴れる三人を見て、目を細める。
そして、微笑んだ。
「神楽、勘弁してあげなよ、銀時も新八も、神楽が大切だから、心配したんだ」
喧騒がとまった。
銀時が下を向いて頭をかく。
私は笑みを浮かべたまま、古新聞の上から草履をとった。
そして来たとき同様、窓枠に足をかける。
「それじゃあ、ね」
「帰っちゃうアルか?」
「そうだね、神楽も少し、戻ったようだし」
「あ、危ないですよ!ちゃんと玄関から、!」
「ふふ、大丈夫、だよ」
そして私は、万事屋をあとにした。
110915.