真選組の人達がコンテナに入ってくるのと入れ替わるように、反対側の出口から外に出た。
黒い湾を眺めていたのを、手元の携帯に落とす。『誰かさん』専用の、この携帯電話。
着信履歴に残っている電話番号を選んで、通話ボタンを押し、耳にあてる。
数回のコール音の後、繋がる音がした。
「名字名前です。仕事は終わりでしょうか」
「……アア」
「分かりました。この携帯は…お返しした方が?」
「イイヤ」
「分かりました、ありがとうございます」
ぶつっ、少し強くボタンを押して通話を終了させた。
黒の薄い携帯電話。
少し眺めて、――湾に投げ捨てた。
どぽんっ。
暗い空、黒い湾、黒い携帯。区別がよく見えなかったけれど、音は聞こえた。
きっと『誰かさん』は、あの携帯に盗聴器を仕掛けていたんだ。忍に私の行動をつけさせていたのかもしれないけれど、それはない。
仕事で聴覚を研ぎ澄ましている時に人が居ることに気づかないわけがない。
盗聴器を仕掛け、私の行動を聞いていたから、高城さんに直ぐ情報が伝わったんだ。
――けれど、何故?何で盗聴器を仕掛けた?
信用がならないなら、違う人に頼めばいい。
「分かりました。この携帯は…お返しした方が?」
「イイヤ」
それに、仕事が終わったのならもう良い筈。けれど盗聴器を回収する、携帯を回収するなんてことには、むしろ反対のようだったし…。
「この仕事そのものがフェイクだったりしてね…」
――何か嫌な予感がする…。そして私の頭の中には何故か、銀時達が浮かんだ。
盗聴器。私に。何の為?仕事の為じゃないらしい。なら…私を調べる為に?何で?分からない。けれど――、
私の周りの人が、巻き込まれるかもしれない。
「聞こえなくなったな…」
「ふっふっふ、せっかちな女だ」
「しかし、墜ちた状態の華蛇から情報を聞き出す辺りも中々であった」
「ともすればやはり名字名前ならば…」
「ああ。出来るやもしれん」
「なあ?お前はどう思う?」
「――是。…と、お答えになれば満足かと」
「ふっふっふ!そうだ、分かっているな」
「では計画を進めよう」
「ああ、進めよう」
「駒は揃ったのだから」
110615.