十数人ほどの浪士達は、銀時が来てくれた甲斐あってか直ぐに地に伏せさせることが出来た。
――ぎゅうっ、と。
柱に縄で縛り付け終えると、一人が私を苦々しい表情で見上げてきた。
「女…お前…事務員じゃないのか!何者だ!」
私は薄く微笑む。
「いいや、事務員だよ?ただ少し、刀やら何やらを扱えるけれどね」
そうして銀時が縄を解いてくれたらしい、高城さんが歩いてきた。
「まさか拐われるとは思ってもなかったぜ。助かった、ありがとな」
「いえ…私もこんな事態は予想してませんでした」
「ほんとう、発信履歴の最後がお前で良かったよ」
「…え…?」
「まあ普段から仕事の担当はお前だから、履歴が多かったのも助かったけど」
…高城さんが、私が戦えるから、私に電話をかけさせたんじゃなかったのか…。
「…けど、私の携帯に高城さんから着信は…」
「ああ、かけて直ぐに後ろからコイツらに殴られたからな。切れたんだろ。――そうそう、電話した用件は…お前、手に入れたんだろ?」
「……え…?」
高城さんは、攘夷浪士達と何やら話している銀時をちらりと見やると、声をひそめて、
「例のブツだよ」
「…じゃあ、高城さんも…」
「ああ、頼まれたっつーわけだ。幕府の誰かだろ?」
「…確かに、幕府内で遣いの人に渡されたから、攘夷側ではないとは思いますが…」
「科学班全体に命が下されてな。――お前が吉原で手に入れてきたそれは、爆弾…いや、核の素だ」
……核…、と小さく呟く。眉が寄った。
――核の素…、華蛇は一体何の為にそんなものを所持していたんだろう…。
まあ、それを手に入れる幕府も、似たようなものか…。
「俺たち科学班がそいつに手を加えると、核になる」
「………………」
「何の為に自分達が核を作らされるかなんて、考えたくねえぜ、まったく。…けど上司も断れねえ相手だったのかもな」
…華蛇が核の素を所持していたという情報を掴んでいたことも考えると…、…確かに、権力者の可能性も…。
そっと右腕を持ち上げ、高城さんに例の物を渡す。袖から消えていくその感触に、頭の中で何かがひっかかった。
――――……。
直ぐに対応出来るようにと、袖に入れてある『誰かさん』に貰った携帯電話。
それを静かに鞄の奥深くにしまった。
「……、…高城さん」
「何だ?」
「高城さんは、私からこれを引き受ける為に、私に電話をかけたんですよね…?」
「ああ、そうだけど…」
――…私が吉原に来る前、幕府内に高城さんは居た…。つまり、今日、それも近い時間内に高城さんは攘夷浪士達に襲われた…。
「ああ、かけて直ぐに後ろからコイツらに殴られたからな」
「私からこれを引き受ける為に、私に電話をかけたんですよね…?」
「ああ、そうだけど…」
「…何で、私がブツを手に入れたと…?」
――どくん、心臓が強く動いた。
「何で、って…。電話がきたんだよ。お前がブツを手に入れたから、受け取るように、…ってな」
「…、そう、ですか…。その時かけた電話番号も、その人達に…?」
「ああ、宇宙とでも通話出来る優れものだろ?な、今度解体させてみてくれよ」
私は微笑んだ。
「是非」
――すると先ほど連絡した、真選組が来たらしい。サイレンの音がいくつも聞こえてきた。
私は銀時の元へと歩いた。
「銀時、ありがとう」
「ああ、お安いご用だ。ま、何かあったらまたいつでも電話しろよ」
「万事屋銀ちゃんは働き者だねえ」
「お前にはサービスしてやるよ」
「ふふ、ありがとう。…じゃあ銀時、今日は本当にありがとう。もう帰った方が良いよ」
「あ?」
「事情聴取、受けたいの?土方さんから」
すると銀時はうげっと顔をしかめたかと思えば、私の頭を撫でて逃げていった。
「なんで頭を…」
苦笑する。
そして目を閉じ、静かに、強く開く。
温もりを、消し去るように。
110615.