微笑む嘘吐き | ナノ
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「えっ…?!あ、あの…!」


普段よりも高めの声を意識して、動揺している――フリをする。


「おい、名前……」


心配そうに名前を呼んできた銀時をちらりと見て、自分の口元に人差し指の先をあてて、にっと口角を上げた。


「お前も幕府の者だろう」
「は、はい…。っ、けど私はただの事務員です…!要求なんて、そんな…っ」
「分かっているさ、そういう奴を狙い電話したのだから。――女、コイツを、助けたいか…?」

「がっ…!」

「っ、高城さん!」


――何ともまあ。
私も、そして同僚の高城さんも役者だね、なんて。
きっと上手く演技して、数ある女性事務員の中から、私に電話するように仕向けたんだろう。

私は二足のわらじだからね。


「っ…わ、分かりました…!私は何をすれば…」
「今から指定する場所に来い。もちろん、一人でだ。くれぐれも誰か…そうだな、幕府の犬なぞに伝えるなよ。人質の携帯から探知しているからな」
「は、はい…!」


――ぶつっ、通話が終わる音が耳の横でした。

私は携帯を耳から離し、かちり、閉じる。
そして隣に居る銀時を見て微笑んだ。


「さぁてと、私はそろそろ家に帰るよ」
「嘘つけェエエエ!」
「ああ、流石にバレたか」
「流石にバレたか、じゃねーよっ!バレバレだわ!」


そりゃあそうだ。
銀時は途中から、私の右側に移動したかと思えば、携帯に耳をあてて、テロリスト、まあ攘夷浪士だろう、その話を聞いていたのだから。


「まあ事実を言えば、今からテロリストの所へと行ってくるから、これにて」


銀時に背を向けて歩き出そうとすれば、ガシッ、頭を掴まれた。


「何かな銀時。早く行かなきゃ同僚が危険にさらされるかもしれない」
「もう十分さらされてんだろ。は、何?お前ホントに一人で行くつもりなわけ?」
「そう指定されたからね」
「へー…」


頭の優しい圧迫感がふっと解かれたかと思えば、私の横を銀色が通り過ぎて、前を歩き出した。

ふう、とため息をつく。


「どこに行くのか聞いても良いかな、銀時」
「あ?何だっけ、アレだろ?湾の近くのコンテナが並んでるとこ」
「…それは私が今から行くところだね」
「奇遇だな」


スタスタ、なんて風には銀時は歩かないけれど、勝手に飄々と進んでいく銀時の後ろ姿を、少し眺める。


…そんなんだから、いつも何かに巻き込まれるんだよ。
そんな、――優しいから…。


眉を下げて微笑んで、そして少しだけ、目を閉じた。
ゆっくり瞼を上げて、銀時の後ろへと小走りで追いつく。


「銀時」
「反論は聞かねえ」
「…、……、ありがとう…」
「………………」


ぽん、と頭に置かれた手は大きくて。
少し、ほだされたような、そんな気分。

――けど、私の夢は、直ぐに覚める。
いつも背中についている、黒い闇によって。












指定されたコンテナの一つ、所々剥げている小豆色の大きな扉をわざと力を込めて開ければ、重たい金属音が夜闇の静寂に響いた。
実際、扉は結構重かった。

扉を開けて中に見えたのは、生ぬるいオレンジ色の光に薄く照らされる、攘夷浪士達の姿。
真ん中に、手足を縛られている高城さんが見える。


「っ……」


ぎゅうっ、手を握り締めて一歩、足を踏み出すと――、


「ああ、こりゃまた…」
「可哀想にねえ、呼び出しちまって…。ま、幕府なんて所に居るから駄目なんだよ」


首元に、少し動けば切っ先が皮膚に触れるだろう距離に、刀が向けられた。

カタカタ、カタカタ。
震えるフリをすると、実際に刀が首元に触れた。


ああ…、やり過ぎた…。
私、怪我は嫌いなんだよ。


内心を態度に表して良いのなら、多分私は自分に向けて舌打ちしていただろう。


ボディーチェックを終えて、私は刀を向けてきていた二人の後ろに着いていき、中央へと向かった。


「度胸があるねえ。お前みてぇな女が、一人でこんな所まで来るんだからよ」
「あ、あなた達が、呼びましたか、ら…!」
「フフ、そうさなぁ。けど悪いね、来てもらったが、アンタはこの男を本気にさせる為の、生け贄ってやつさ」


え…?と、掠れて、殆どが空気で出来ているような声を出す。


「この高城っつう男は、爆弾やら何やらを作る幕府側のプロだろ?」
「は、はい…。高城さんは、科学班、です…」
「ならコイツを奪えば一石二鳥!幕府には穴が空き俺らには利益が出る、…筈なのに、とんと口を割りやがらねえ」


――だからさあ…、と。
近くに居た浪士が、私の耳元に口を寄せた。


「アンタを煮るなり焼くなりすれば、本気になるかな、…ってな」
「っ…――!」
「女房でも居ればそっちを使ってたがなぁ…」


リーダー格らしい男が、高城さんを見て鼻で笑うと、私の方へと近づいてくる。
一歩、一歩進む度に、周りの浪士は私から離れて。

ほのかな蛍光灯に照らされる男を見る私の視界に、フッと一本の長い影が現れた。


「ナイスキャッチ、…なんてね」


その影――刀の柄の部分を掴んで一人で笑う。


「おいおい、銀さんのナイスプレーのお陰だっつーことを忘れんなよ」
「オッケー、我が命に代えても。…だっけ?」
「おまっ…、それ誰から聞いた」






110602.