「わっちが傷を付けてしまったんじゃ、手当てはわっちが…!」
「待ってよ月詠姉、オイラがやるよ!オイラ、名前姉と話したいことがあるんだ!」
「し、しかしだな…」
終わらない話し合いに、私はどうしようかと視線を右往左往させて、そうして月詠を見て微笑んだ。
「じゃあ手当ては晴太に頼もうかな、つもる話もあるみたいだし…。月詠、そんなに気にしないで?」
というか本当に、君は何も悪いことなんてしていないんだよね…。
そう言うことは、出来ないけれど。
――晴太は月詠を初めに、何故だか万事屋の三人をも部屋から閉め出した。
名前姉と二人っきりで話があるんだ!
なんて言って。
「晴太、傷の手当て、上手だね」
「へへっ。銀さん達や月詠姉の手当てですっかり慣れたんだ!名前姉も、怪我したらオイラんとこ来なよ!」
「そうだね…じゃあ、そうしようかな」
「約束だよ!」
私は目を細めて笑う。
「ああ、それで話って…、…晴太?」
そして言葉を途切れさせた。
晴太が少し生意気そうに顎を上げながら、ん!、と右手の小指を私に向けていたから。
数度瞬きすると、悪戯そうに晴太は笑う。
「銀さんに聞いたんだ。名前姉はちゃんとした約束に弱い、って!」
「アイツは何が本当の言葉かなんて分かんねえからな。だからアイツが本当に約束だっつった時は、アイツはぜってぇそれを守る」
「だからちゃんと約束しとかなきゃ、誤魔化されるぜ、って!」
思わず眉を下げて苦笑をこぼした。
すると晴太が、また笑いながら小指を向けてくるので、私はそっと、自分の小指をその小さな指に絡めた。
「…毎回、来れる訳じゃないよ?吉原の中でとか、吉原の近くに居た時とか…」
「分かってるって!」
くしゃっ、と。
晴太が本当に嬉しそうに笑み崩れるので、私は思わず少しその笑顔を見つめて、そして微笑んだ。
「じゃあ、そんな、時…お願いするね?晴太」
「っうん!」
――……傷の手当てをしてもらった私は、救急箱を整理している晴太を見た。
「それで…何か私に話したいことがあるの、かな?」
「あ、ああ…うん、えっと…」
少し照れているような晴太は、バッと顔を上げる。
「名前姉、言ってくれただろ?お互いが大事だって、大切だ、って。そう思っているならそれでいい、って」
静かに、うん、と頷く。
「オイラの母ちゃん、血は繋がってなかった。けど、オイラの母ちゃんは、本当にオイラの母ちゃんだったよ!」
「……そっか、…」
「あ、こ、これじゃ意味分かんないよな?あははっ」
「ううん、分かるよ」
ふわっ…、と。
晴太の頭に手を置いた。
柔らかい髪の毛を伝い、首元まで滑らせる。
くすぐったそうにする晴太を見て、目を細めて笑った。
「…昔ね、ある男の子が居たの」
「…男の、子?」
「そう…、万事屋のみんなと最初に会った時の晴太みたいに、つっぱってた…。変に大人びてたのかな…」
晴太を見てると、不意に、思い出した…。
…あの子は晴太みたいに、素直になってはくれなかったけどね。
いつまでも大人びていて……そういえば、あの子は今何をしているのかな…。
「オイラと似てるの?名前は?何て言うの?」
すると晴太の声で、少し思い出に浸っていたところから、現実に戻された。
「名前はね、知らないの」
「?どういうこと?」
「その子は自分の名前を嫌っていたから、教えてくれなくてね…。でも、私が勝手に呼んでたのは…――ラク」
「ラク…?」
「そう。いつも無表情だったから、少しは楽しくってことでラク」
私は思わず笑った。
「今考えればすごいネーミングセンスだね。まあ子供だからね。大目に見てよ」
肩をすくめておどけると、晴太は無邪気に笑った。
――ブーッ ブーッ
すると着信を告げる、携帯のバイブ音が鳴ったので、取り出して開く。
「………………」
画面の右下に表示されているのは、例の『誰か』さんだ。
晴太に、部屋から出るようやんわりと伝え、通話ボタンを押し、携帯を耳にあてる。
「……もしもし」
「………………」
「……件の物なら、手に入れました」
「………………」
「…あの、」
ブツッ。
雑な音が耳の直ぐ近くでして、通話を切られたんだと分かる。
思わず少し眉を寄せて、携帯を見た。
状況を確認したいのなら、いつも通りメールで良かっただろうに…。
何なんだ、いったい。
ふう、とため息をつく。
と、ガラッと襖が音を立てて開けられて、そっちを向き――少しだけ眉を寄せてしまった。
「――…銀時…」
110601.