神威が一人で船内を歩いていると、突然横から首元を引っ張られ壁に勢いよく叩き付けられた。
分かっていた神威は、笑みを絶やさない。
「何かな、シンスケ」
「……テメェ…、アイツの何を知ってやがる…」
「名前の?何も知らないけど、…名前のあの、何て言うか弱い部分?を知れるのって凄く嬉しいんだね」
「………………」
「アハハ、苦しい苦しい」
にこにこと笑う神威から、苛立たしげに手を離す高杉。
神威は少し首元を直す。
「本当に何も知らないよ。ただ、偶然遭遇したんだ」
「…………」
「名前の、弱さに」
「死にたいって言ったら、殺してくれるの?」
「ちょっと驚いたよ。普段はあんなに何十もの殻で弱さを覆ってるんだ、ってね」
「…チッ」
「でも傷つけないようにしてたら、何時まで経っても殻は割れない」
――タカスギシンスケ。
と、神経を逆撫でするような呼び方で名前を言われて、高杉はギラッ…!と神威を睨み付ける。
そして少しだけ眉を寄せた。
「のんびりしてたら、貰っちゃうよ」
――透き通るような、空色が見えていた。
「緊迫してるところ悪いでござるが、」
するとそんな時、場の空気に臆することなく万斉が現れて口を開いた。
「名前なら地球に帰ったでござるよ」
その言葉に、神威はにっこりと笑みを深め影を深くし、高杉はギッ!と眉を寄せた。
「アイツ…」
けれど、ふっ…、と。
力を抜いて、いつものようにニヒルに笑う。
「変わってねえな」
万斉はそんな晋助を見て少し笑うと、神威を見た。
「伝言という訳ではないが、『神威には何だかんだで連れ回されて、地球に帰るのがいつになるか分からなくなりそう』…と」
「ふふ、まあ当たりだけど。阿伏兔に言って地球との密約増やそうかな」
「それから晋助には…」
「………………」
「またね、って。言っておいてもらえるかな」
その時、高杉の頭には名前が浮かんだ。
笑顔の、名前。
ハッ、と鼻だけで笑った。
「シンスケには、またね?あり?僕には?」
「いや、まあ二人に言っていたでござ…」
「黙っとけ、万斉」
110525.