「退け!お前ら!」
「!し、晋助さんッ、どうしたんスか…?!」
「退けと言うのが分からんのか!」
居間に居ると玄関から小太郎の怒鳴り声が聞こえてきた。
――…晋助…?
一緒に居た銀時と辰馬も眉を訝しげに寄せている。
足音が近付いてきて、居間に転がり込んできたのは、
「…おいおい、こりゃ…ヒデーな」
「晋助!大丈夫き?!」
左目辺りからだらだらと血を流し気を失っている晋助と、その晋助の腕を肩に回し支える小太郎。
晋助の顔左半分は血で濡れている。
私は棚にある救急箱を取りに行き銀時と辰馬に、
「銀時は水!辰馬はなるべく多くのタオル!」
走っていく二人を横目に、小太郎を手伝って晋助を床に寝かせる。
「名字、桂!し、晋助さんは…晋助さん、は…!」
「…傷が深い。恐らく目玉まで傷ついている」
「とりあえず早く治療しなきゃ…、このままだったら余計マズイ事になるから」
回りを取り囲む鬼兵隊の人達。
それを押し退けてやって来た銀時と辰馬から水とタオルを受け取る。
タオルに水を浸し傷の辺りを綺麗にしていくと、露になる開いた傷口。
「………………」
傷口を避けて指をあて、軽く目を開かせる。
「……多分、もうこの目は使えない…」
銀時、小太郎、辰馬を除いてざわつく周囲。
「そんな…!晋助さん!」
「天人の奴ら…!ブッ殺してやる!」
「――…ぎゃーぎゃーうるせェんだよ。お前ら…」
「晋助さん!」
「だ、大丈夫ですか?!」
すると晋助の右目が開かれて上体を起こし始めた。
小太郎と二人でそれを支えると、晋助はぽつりと
「…開かねェな…」
「左目…?」
「ああ」
「…筋が、切られているよ」
「ハッ!やっぱりな」
「やっぱりな、じゃねェぞコノヤロー。なに格好つけてんだお前は」
「うるせェよ白髪。これは天人へのハンデをやったんだ」
「あっはっはー!やるのォ、晋助!」
「何を言っている。その天人にバッサリやられたのではないか。血の気が引いたぞ」
「晋助、これ飲んで」
麻酔薬と水を渡す。
そして私は消毒液やら包帯やらを救急箱から取り出す。
今でも痛いだろうし、まぁもしかしたら麻痺してるかもしれないけど…更に消毒液なんかかけられたら私なら飛び上がるね。
相手に斬りかかるよ。
晋助は痛そうな様子は微塵も見せないだろうけれど。
「晋助さん…」
「俺がこれくらいでやられると思ってんのかァ?」
「い、いやまさか!」
「まァた格好つけてるよ、高杉の野郎」
「意地っぱりな奴だな、全く」
「高杉は格好つけてなんぼじゃきー」
「確かに…助けてママーとか晋助が言ったらね…」
「「ぎゃははははは!」」
「テメェら…余程斬られてえみたいだな」
「助けてママー」
「「ぎゃははははは!」」
「………名前」
「すいませんでした」
あれ、おかしいな…。
片目になってしまった晋助なのに、眼光の鋭さは変わらないってどういうことだ。
…あ、即効性の麻酔だからもう効いたかな。
水で濡らしたタオルを晋助の傷口にあてる。
「痛いかな」
「いや」
「じゃあ消毒液つけるよ」
綿に消毒液を浸して、とんとんと傷口にあてていく。
晋助は大人しくしてるから、強がりじゃなくて本当に麻酔が効いてるらしい。
「あ、晋助の顔、血塗れだから誰か、拭いてあげて」
「じゃあ俺が、」
「触んなヅラ。ヅラが移る」
「ヅラじゃない桂だ!というか移るとは何だァアア!」
「じゃあわしがやるきに!」
「触んなもじゃもじゃ。もじゃもじゃが移る」
「あっはっはー!髪引き抜くぞこらァ」
「俺はやんねー」
「元から頼まねえよ。白髪天パ」
「白髪じゃねェエエ!」
「消毒終わっちゃったよ」
結局私がやるのか。
効率悪いな。
特に何も言わない晋助に、私は優しく顔を拭き始めた。
「何だよ、名前なら良いってか?」
「まあ銀時みたいに移る物無いからね」
「別に俺だって移る訳じゃねェよ!」
「いや、私は銀時の髪は好きだよ。ふわふわで、わたあめみたいだ」
「あれ、お前この前わたあめ好きじゃないって…」
「うん、好きじゃない」
「矛盾しとるぜよ、名前」
「そうかな」
「いかんぞ名前。日本男児たるもの、自分の言葉に責任を持たねば」
「女だけれども」
拭き終えたタオルを小太郎にびしりと投げ付ける。
そして包帯をしゅるしゅると巻いていく。
「ああ、格好良いよ晋助。片目ってキャプテンだからね。眼帯じゃないけれど」
「なに…?まさか高杉、お前俺のキャプテンの座を狙っているのか?!」
「黙れヅラ」
「ヅラじゃないキャプテンカツーラだ!」
「永遠に黙れヅラ」
「ヅラじゃない、キャプテンカツ」
「うるせええええ!」
「ごはァッ!」
銀時の蹴りがクリティカルヒットした小太郎は棚に突っ込んでいった。
鬼兵隊の人達が戸惑い気に声をかけているけれど、放っといて良いよ。
きゅ、と包帯を頭の後ろで縛った。
「出来たよ。傷が塞がるまでは、毎日消毒」
「…めんどくせェ」
「腐るよ」
――…静寂が漂う夜中。
布団の上でうつ伏せになっている私は呟いた。
「眠れない…」
…微妙に眠いのに寝れないのが一番嫌だ。
…無理して寝る必要も無い。
散歩でもしてこよう。
そうと決まれば早くて、サッと立ち上がって着物を少し整えると部屋を出た。
少し肌寒い空気はぼうっとした頭に覚醒を促してきて目も冴える。
「…う…く、…ッ」
すると居間の前を通り過ぎた時に、呻き声が聞こえた。
ぴたりと足が止まる。
「う…あ゛……」
―――…晋助の、声…。
私は少し止まってから、居間の襖を静かに横に引く。
あの後麻酔が全身に回り眠った晋助を部屋に運ばず、そのまま居間に寝かせておいた。
薄暗い空間を静かに歩き晋助に近付く。
晋助は目をギュッと瞑り眉を寄せ、手はギリリと力が入り、でも眠っていた。
…麻酔が切れたのか。
コップに水を入れ、救急箱から麻酔薬を取り出して晋助の横に座る。
優しく頭を持ち上げ膝に乗せる。
苦しそうに息をする晋助の額に手をあてれば傷のせいで熱を持っていて熱い。
私の手がひやりとしたのか、段々と呼吸が落ち着いていく。
私は晋助の口を軽く開けると麻酔薬を放り込み、そして水も流し込んだ。
それと同時に喉ら辺のある一部をを押せば、こくりと喉は上下した。
優しく晋助の頭を枕に戻す。
すると襖が開く音がして後ろを向いた。
「…銀時、小太郎、辰馬」
「ったくソイツの呻き声がうるさくて寝れねーんだよ」
「止めようと来てみたが、もうやっていたな」
「名前偉いぜよー」
…ふふ、部屋は二階なのに晋助の呻き声が聞こえた、か…。
「私も眠たいのに寝れなくてさぁ、困ったから来たんだ」
そうして、微笑んだ。
101128.