「――…ふぅ…」
華蛇から情報を聞き出す前、来島また子と少し会話した部屋の長椅子に一人で座る。
とすん、と背を預けてため息をついた。
窓から見える景色は常に変わらないから(実際は変わっているかもしれないが)時間の感覚が分からない。
サイコロ、のような石ころ。
それを両手のひらの上でころころと遊ばせて、ぽいっと近くのゴミ箱に捨てた。
カチ、と携帯を開いて、この仕事を依頼してきた『誰か』へのメールを作成する。
この携帯も、宇宙を越えても連絡出来るから、とその『誰か』の遣いに渡された。
送信し終え、携帯を左のポケットに入れて、びくっと肩を揺らした。
「……ぁ…、…」
――黒くて、深い、闇。
ブラックホール。
宇宙では自然…と言えば変かもしれないけれど、それは知識として知られている。
そう、これは、自然の、宇宙の摂理。
違う、関係ないよ、あの闇とは、関係ない。
関係、ない、のに――、
「っ…」
こわ、い。
身体が勝手に震える。
一気に身体が冷えた。
鳥肌が肌の上を走る。
この場に居たくなくて動こうとしても、震える手が椅子を引っ掻くだけ。
「っ…ゃ……」
「――どうしたの?」
再びびくりと肩が揺れた。
弾かれるように声のした方を振り返る。
「…かむ、い…」
「どうしたの?名前。何か、怯えてる?」
カチャ、椅子を引っ掻いた拍子に爪が当たって音がする。
神威は少し窓の外を見ると、私を見て首を傾げる。
「もしかして、あの黒いのが怖いの?」
にこにこと、いつもの笑みを浮かべたまま歩いて来る神威は、私の隣に腰を下ろして、私の頬を両手で包んだ。
自然と、私は神威を見ることになる。
「見たくないなら、見なきゃいいじゃん」
――思わず、目を丸くした。
数回瞬きをして、そしてふっと力が抜けて頬を緩める。
目を伏せて薄く微笑む。
「うん…ふふ、そうだね…」
ぽんぽん、背中を一定のリズムで叩かれて、目元が緩む。
静かに息をつけば、そのまま言葉が口から出そうで。
少し考えていると、神威が私を覗き込んだ。
「何だい?名前」
「…、ちょっと、疲れた…」
すると神威はにっこりと笑みを深めた。
首を傾げると、何でもないよ、と言う。
「華蛇から情報聞き出したんだってね」
「うん…。ていうか、それで此処に来たんだよ」
「あり?そうだった?」
くすっ、笑みをこぼす。
「で?名前はそういうの、得意じゃないんだ」
「…精神的にね…」
「殴っちゃえば良いのに。すぐ吐くよ?」
「…その方が、苦手…。ていうかこうやってグチグチしてる自分も嫌だ…から、もう止める」
ダウンスパイラルの渦に自ら飛び込む気はない。
自分で何でも変えられるんだから、落ち込むっていう選択肢を、取らないことにする。
「ま、ここまででも十分なんだね」
「…?」
「ん?こっちの話」
「…ねえ、神威」
でも、さっき黒い闇から引っ張ってくれたのは、神威だ。
「ありがとう」
110525.