微笑む嘘吐き | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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べん、いや、べべん、違うな…まあ言葉じゃ表すことが出来ない、弦が弾かれる音が部屋の中に響いている。


…けれどまあ、三味線と言ったらもう少し古風なイメージがあったんだけれど…私ももう古いのかな…。
この音楽はまるで――、


「和×ロックだね」
「…!分かるでござるか、流石は名前」
「ありがとう、でござる」


――河上万斉。
鬼兵隊の二番手。
私が少しおどけて語尾に彼の口癖をつけると、彼はちらっとこっちを見て笑った。


「ござる、って、いつから言ってるのかな」
「さあ…拙者にも詳しいことは…ただ気づいたら付いていたでござるよ」
「そうでござるかでござる」
「そういう時は、そうでござるか、だけで良いでござるよ」
「成る程でござるでござる」
「…名前、もしや拙者をからかっているんじゃ…」

「ククッ」


万斉の問いに答えたのは、おかしそうな晋助の笑い声。
万斉はそんな晋助を少し見て、そして私に視線を移し眉を下げて笑った。


――煙管から紫煙をくゆらせる晋助は、まるで宇宙船とは思えない、江戸製のような窓に腰掛け、けれど宇宙という景色の方を向いている。
万斉が来る少し前に、起きてくれた。


「………………」


それより、どうやら私は万斉の三味線の音色や曲を、のんびりと聴くことは出来ないようだ。


静かに立ち上がって部屋を出ていく。

今まで居た部屋とは違う、冷たさを感じさせるような白い通路を少し歩けば、中くらいの部屋が開ける。


「…!」


私を見て驚き、そして直ぐにその表情は固くなり、目は鋭く私を睨み付ける。


――やっぱりね…。
さっき部屋に入ろうとして、息をのんで踵を返していったの、君か。


彼女が私を良く思ってないことは重々承知だけれども、私は彼女の座る長椅子に、少し距離をおいて座った。


「私は、攘夷戦争に身を置いていたんだ」


そうして、彼女が私を嫌がって早々にこの場を立ち去ってしまう前に、声をかける。


「今は、幕府で働いている」
「…自己紹介なんて、いらないっスよ」
「そう…、そうかな」
「……いらないっスけど、…っ、そんなの、敵う筈ないじゃないっスか…!」


くしゃりと顔を歪ませた彼女を見つめる。
目が少し潤んでいた。


「私は、君が望む位置には居ないよ」
「…そうっスね…、確かにアンタは、晋助様の隣に居る!私は着いていけるだけで良いんっスよ!」
「そうじゃなくて…」
「そうっスよ!…っ、着いていけるだけで良いんっス…。隣に立つなんてこと、望んでない…。ただ…」



晋助様を、支えたい――。



涙声で紡がれた言葉の奥に潜む、彼女の想い。
確かか不確かか分からない、晋助の感情。


紅桜の一件で、小太郎と晋助、そして何故かまた事件に巻き込まれていた銀時までもが、敵対するようになったことは勿論知っていた。
攘夷時代の仲の悪さ、馬が合わない、なんてものとは、きっと全く違うもの。

先に仕掛けたのは晋助で、攘夷時代のことなんてもう関係ないかのように。
けれどそんな晋助にこそ、攘夷時代に何かしらの気持ちがあるのかもしれなくて。


晋助は素直じゃないから、私が言うのも何だけれど、よく分からない。
行動がそのまま、晋助の真意なのか。
はたまた、行動と真意は違うのか。


「過去なんてもう、何処にも無いんだよ」
「っ…、何っスか…?」
「初めにも言ったね。私は攘夷戦争に身を置いていて、『今』は幕府で働いている」


非情なのか、慈愛なのか。
過去はもう、どこにもない。
暖かな情景は思い出にされ、嫌な記憶は消してくれる。


「今、晋助の傍に居るのは君だよ。今、晋助の為に動いているのも君。過去を振り返ったところで何も出ない」


少し目を丸くして私を見つめる彼女に、私はようやく、微笑んだ。


「それに私は、過去だって、君のように晋助の為を思って、晋助の為に動いてないからね」


ケラケラ、笑う。


「私は自分の為を思い、自分の為に行動するよ。言うなれば自分勝手だね。私はそうは思わないけれど…。ま、君の望む場所に私は居ないからさ。それだけは言いたかったんだ」


さあ、そろそろ此処に来た目的を果たさなければ。
私は此処に、仕事をしに来たんだから。


「っ、じゃあ!」


立ち上がり少し足を踏み出した時、彼女が声を上げたので首だけで彼女の方を見る。


「自分勝手って言うなら、何で言いに来たんスか…?は、励ますような、そんな真似したんっスか…」


彼女の頬が少し赤い。
目線は下の方に泳いでいる。

自分の口角が少し上がった。


「だって、噂の赤い弾丸に、後ろからバン!なんて、されたくないからね」


彼女――来島また子がバッと私を見上げる。

おどけるように笑って、そして私は駆け出した。


「ちょ、コラ待ちやがれっス!どんだけ野蛮な女だと思ってんスかァ!」






110524.