――困った。
本当に、困った。
「…………」
静かに浅い息をする晋助をちらりと見上げる。
――瞼は下ろされている。
寝てしまったのだ。
晋助が。
「…眠ィ」なんて言ったかと思うと勝手に横になって、しかも私も一緒にだ。
そのくせ、本当に寝ているのかと疑うほど力が強くて腕の中から抜け出せない。
今は少し諦めて、その端整な寝顔を眺めている。
「…ふふっ…」
けれどそうして思わず、笑みをこぼした。
普段はクールというか、キツそうな顔してるのに、寝顔は相変わらず、ちょっと子供っぽいんだなぁ…。
懐かしさに頬が緩む。
するとパタパタと軽い足音が聞こえてきて、タンッとこの部屋の前で止まった。
少し考えて、目を閉じる。
「晋助様…?失礼しま……」
聞こえたのは女の声で。
晋助様、と呼んでいる辺り、鬼兵隊の一員なのかもしれない。
「っ…」
すると何故か、息をのむ音が聞こえた。
そして直ぐにドアが閉まって、彼女は走って去っていってしまった。
「――――……」
ゆっくりと瞼を上げる。
しかし……眠れない。
眠っても良いのだけれど、体はそうもいってくれない。
…まあ、しょうがない、か。
本当に安全な場所じゃないと、私の心がそう決めないと、私は、寝られない。
幼少の時の出来事は体に、脳に、心に無意識の内に染み渡り、癖などは中々抜けない。
三つ子の魂百まで…とは、よく言ったものだ。
「武市先輩!何なんっスか!あの女ァ!」
「ああ、あの幕府からの女性ですか」
「幕府ゥ?!もろ敵じゃないっスかあ!」
苛々として銃を握りながらウロウロしていると、武市先輩がいつもの目で私を見た。
「何があったんですか」
「……晋助様、起きなかったんスよ…」
「はい?」
「だからァ!晋助様が起きなかったんス!」
自分でも意味が分からないだろうなとは思ったけど、詳しく説明するほど落ち着いてなくて、――落ち込んでいた。
「…晋助様が寝てるとこなんて、見たこと無かった…部屋に入る前に、足音や気配で気づいてるんスよ!…けど、けど、さっきは…」
晋助様は、起きなかった。
それほど深く、眠りについていたんだと、思う。
だって晋助様は、気配に敏感だからとかじゃなくて、…何て言うか、そういう個人的な所っていうか、弱み…あああ!よく分かんないけど!とにかく見せてくれない。
「…っ」
――悔しい。
「まあ私にも良く分かりませんが…あの女性は幕府という我々の敵の場所居るけど、敵じゃないってことですよ」
「……晋助様にしたら、っスか…」
――、…悔しい。
110524.