微笑む嘘吐き | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -



「タカスギシンスケ」
「…………何だ」
「これからね、幕府の人間が来るんだ。それで、君も会ってみたらどう?」
「…喧嘩売ってんのか」
「ははっ、やっぱりそうなっちゃうよねー」


ケラケラ、笑う餓鬼。
宇宙海賊第七師団長の神威。


「まあ密約の橋になったのはついこの間だけどね。今日初めて来るんだ」


聞いてもねェのに勝手に一人で話しているコイツを気にせず、紫煙をくゆらせる。


「団長、着いたぜ」
「そ。通してよ、阿伏兎」
「…あいよ」


シューン、機械音がしてドアが開く。
何の気なしに窓の外の宇宙とやらを眺めていた俺の耳に、信じられない言葉が届いた。


「や、よく来たね、名前」


――ぴたり、止まる。
目を少し見張る。
どくん、どくん、。
心臓が強く鳴る。



「地球、江戸の幕府から参りました。――名字名前です」



――柄にもなく、弾かれるようにそっちを見た。

さらりと揺れる黒い髪。
真っ直ぐな立ち姿。
柔らかい、透明な声。


「…………名前……」


意識せず口から出た言葉は酷く掠れていて、それでもアイツは気づいたのか、俺を視界に捉えた。


「――……晋助……」


――俺は自分でも気づかねえ内に歩き出していた。

か、らん。

煙管が床に落ちる音が後ろから聞こえる。
歩いて、歩いて、遠い、もうすぐ、もう、――届く。


「…晋助…」


もう一度アイツが、名前がそう言って、胸の辺りが何とも言えない感覚になる。


――肩に手をやって、引き寄せた。
きつく抱き締めて、柔らけえ髪の毛に顔を埋める。
深く息を吸って、吐く。


「――……名前…」
「…晋助…」
「、名前」
「…晋助」


左手を頭に、右手を腰にやって包むように抱き締める。
目を閉じて、深く息をする。



「――あり?」



ゆっくり瞼を上げて、そして眉を寄せた。
舌を打つ。


「おい、借りるぞ」
「え、あ、晋助、…っ?」


ひょいっと抱き上げて勝手に歩き出す。
慌てる名前は別に、あの餓鬼は何にもしてこねェから、まあ良いんだろう。
















――まさか。
本当に、まさか、だ。
まさか晋助にこんな所で会うとは、…いいや、もう会うことは無いと思っていた。

…それにしても春雨と手を結んでいるんだね、鬼兵隊。
まあ、それがどうしたという訳じゃあないけれど。


「……晋助、」
「…………」
「あの、晋助…?」
「…………」
「…………」


それより――困った。
自室なのか、まあでも特に何も無い部屋に連れて来られたかと思えば、また晋助に抱き締められている。


「……幕府に居んのか」
「…!…うん、そうだよ」
「…………」
「…………」
「…別に俺ァどうも思わねえ。お前が国の為に戦ってた訳じゃあなかったのは知ってる」
「…そっか」
「ただ… 」
「…?晋助?」
「…何でもねえ」


ボソッと呟かれた言葉が聞き取れなくて、それを伝えるけれど晋助は二度は言わなかった。






(…生きてて、良かった)
110418.