夜も更けて23時。
眠らない街と呼ばれる江戸では、もちろん暗いということはない。
高層ビルの黄色い電気、いかがわしい繁華街のネオン、マンションの白い電気、オレンジ色の街灯。
そんな光で照らされた道をお馴染み万事屋トリオが歩いていた。
「ホント、今回の仕事は長引きましたねー」
「けど食いモン出たからオッケーネ!」
「ああ、これで飯無しだったら銀さん殴ってたね」
すると神楽が、あ!、と声を上げた。
「名前アル!」
指を差したその先には、少し早歩きで、時節右手に持った携帯を確認している名前。
「なんか名前さん急いでますね。!まさかこれから仕事なんじゃないですか?!」
「んなわけねーだろ。いくら幕府っつっても限度があんだろうが。…それよりアイツ、なんか嬉しそうだな」
「嬉しそうっていうか、ワクワクしてる感じネ!」
「あ、じゃあもしかしてデートとか」
「「あぁん?!」」
凄まじい表情の銀時と神楽に睨まれて、新八はヒイッ…!と声を漏らす。
「お前は馬鹿ですか!馬鹿ですかァ?!アイツにそんなもん…銀さんは許しません!」
「何キャラだよ」
「名前の彼氏になるなんて、私達の審査を通ってからじゃなきゃ駄目アルヨ。新八は書類審査で駄目だけどな」
「おいィイイ!僕の評価なんか聞いてねェよォオ!」
はあ、新八はため息をついて眼鏡を直す。
「まあ、確かに名前さんはそういうの想像出来ませんもんね。って……?!」
驚いた表情の新八。
銀時と神楽は首を傾げて振り返り、そして新八と同じ反応をした。
「遅くなっちゃったな…」
携帯の画面、右上に小さく表示されている時間。
23:14。
待ち合わせの時間から15分程過ぎてしまっている。
かつかつ、時刻に関係無くある人の流れの中を、少し速いスピードで歩いていく。
すると次の瞬間、私の前に人が降り立った。
「――全蔵!」
びっくりした!
「ごめんね、仕事が長引いちゃって…今急いで向かってたんだけど…」
「ああ、だと思った。から迎えに来たぜ」
「…?」
「フフ、知らねェのか?忍はなァ、車より速く走れるんだぜ?お前一人抱えてなんて楽勝だ」
「!すごいねえ!全蔵かっこい」
ドシャアアア!と全蔵が地面を滑っていった。
数秒フリーズしてから、全蔵が飛んでいった左側を見る。
「いやいや、なんで」
全蔵に殴る、蹴るの暴行を加えている、見馴れた銀色とオレンジ色に、そう言葉を投げ掛けると右手首をグイッと引かれた。
「名前さん、駄目です、名前さんにはもっと良い人が絶対に居ます、彼は銀さんと同じくらい駄目です」
「……新八、あの、何か勘違いしてないかな」
良い人って…。
これは多分、いや絶対、私と全蔵の仲を友達以上、まあつまり恋人だと思っている。
ちらり、視線をズラせば、未だに蹴られている全蔵。
私は少し慌てて歩いていく。
「二人とも、やりすぎだよ」
「止めんじゃねェ。コイツはそれだけのことをしたんだ」
「いや、何が?」
「書類審査を受けないで合格なんて失格ヨ!」
「いや、何が?」
ボキボキと骨を鳴らす二人にツッコミを入れつつ、倒れている全蔵の傍へと膝を折る。
「ぜ、全蔵。大丈夫…じゃないね」
「う、ぐ…コイツら…」
「……どうしようか、止めておく?」
「いや、それは駄目だ!絶対に行く!」
「殴り方が足りなかったようじゃねェか…」
「そうネ、まだまだアル」
瞳孔を開かせて迫ってくる銀時と神楽の前にストップ、というように手の平を向ける。
そしてポケットから二枚のチケットを取り出した。
「ごめんね?二人分なんだ。――ジャンプ映画祭限定版レイトショー」
間。
「「「はァアアア?!」」」
三人並んで驚く光景に、おかしくてケラケラと笑う。
するとガシッと銀時に肩を掴まれた。
「銀さんも行きてェ!ジャンプと共同企画してる会社の製品の中に入ってるっつーチケットだろ?!金欠なのに買いまくったけど全然当たんねーのな!これが!」
「はは」
「はは、じゃねえーっ!お前のその運分けてくれよ!ていうか銀さんを誘えーっ!」
いやあ、夜中だってのにテンション高いねえ、銀時は。
新八と神楽が冷めた目で見てるよ?
「銀時がジャンプ好きなのは知ってたんだけど、チケット当てたコンビニで全蔵に会ってね。――あげちゃった」
「あげちゃった、じゃねえーっ!」
「ちょっと銀さん、近所迷惑ですよ。名前さんも全蔵さんと知り合いだったんですね」
ああ、と全蔵を見上げる。
「フリーの忍者として、たまに幕府機関も依頼するんだよ。私がその橋渡しってわけ」
「ああ、なるほど」
「すごいよねえ、元お庭番衆で、お庭番衆の中でも最も恐れられた随一の忍術使いなんだって」
全蔵がフフ、と笑う。
「それほどでもねーよ」
「いやいや、それほどでもあるよ。だって前にお願いしたらビルを一気に上って屋上まで一瞬で行ったんだよ?すごいよねえ」
「……名前さんって、忍者とか好きでしょう」
「ふふ、バレた?」
すると神楽に手を引っ張られた。
「名前、私ならそのビルを破壊出来るネ」
「え?いや、すごいけど…やっちゃ駄目だよ?」
「名前、俺なら苺牛乳を最低でも5パックは飲める」
「ああ、そう」
「反応冷たっ!」
他になんて言えば。
大体私は甘いものはあんまりだから…想像しただけで胸焼けしそうだ…。
「名前」
「ん?なに、全蔵」
「つかまってろよ」
グイッ、と腰を引っ張られて全蔵の胸に飛び込む。
次いで浮遊感。
全蔵の肩越しに、ブチキレている三人が見えた。
――はるか地面に。
「う、わ…!すご…!」
まあ初めての忍者体験?に、そんなことは直ぐに消え去りましたとさ。
なんてね。
110318.