――名字名前という人間は、一言じゃ表せねェ人間だと思う。
一言、というか、どの言葉にも当てはまらねェ気がする。
俺の周りに居る奴等も、まあ変わってる奴等ばかりだと思うが、どんな奴かと聞かれたら答えられる。
……けど、
「…………」
けどコイツは、名字名前は言えねェ。
レイアーク星の王子、レイ・クローディアスとの見合いを、護衛という立場で、部屋の外で聞いていた。
そして見合いは終わり、レイ・クローディアスは晴れた顔で部屋を出ていった。
そして名字名前は、一人になった部屋で、整えられていた髪を下ろし、窓枠に肘をついて、庭を眺めている。
そして俺は壁に寄り掛かり腕を組みながら、そんな名字名前を何の気なしに見ている。
――名字名前という人間は、一言じゃ表せねェ人間だと思う。
一言、というか、どの言葉にも当てはまらねェ気がする。
強いて言うなら、
好かれる、
優しい、
変わってる、
不思議、
とか……か?
でもどれも当てはまるようで、どれも当てはまらない気がする。
裏だと思えば表だった。
そんな奴だと思う。
つまりコイツは読めねェ。
万事屋の野郎は少し長い付き合いみてェだが、アイツも名字のことは分からねェに違いねェ。
――月の光に照らされた整った顔は、美しいと、柄にも無く、ただそう思わざるを得なかった。
それが当たり前だと、思わされるような美しさ。
この世のものとはまるで思えないような、。
世の中にはコイツよりも綺麗な奴や整った顔の奴は居ると、それも分かる。
けれど、今のコイツとその誰かを比べて、どちらに惹かれると、目が行くかと聞かれたら、名字名前を選ぶ奴しかいないと、それも分かる。
――名字名前という人間は、色んな奴に好かれている。
当然だ。
コイツが紡ぐ言葉は何故か知らねェが、心にすんなりと入ってきて淡く光る。
だが、コイツが好かれる…いや、コイツに惹かれる理由はそれだけじゃねェ。
――たまにコイツは、ある表情をする。
何とも言えねェ、愁いを帯びているというか、哀しそうというか…けど無表情にも見えて、ゾッと背筋が凍るような表情にも見える。
裏と表。
それは違うもののように思えて、けれど同じものだ。
元は同じ一枚のコイン。
表裏一体。
どちらも、同じ人間だ。
そしてコイツと関わった奴は誰でも、その両方を知りたいと、思わずにはいられねェ。
「――ああ、土方さん。そんな所に居ないで土方さんも入ってきたらどうですか?高級料亭の庭というだけあって、凝られてますよ」
微笑むその姿の奥に隠される、捕まえられないその姿。
殻を無造作に破って、それを見たい。受け止めたい。
名字名前という奴は、惹かれずにはいられない、そんな奴だと、俺は思う。
そう、誰でも。
(ある男の独白)
110310.