微笑む嘘吐き | ナノ
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「#寸止め」のBL小説を読む
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はい?と、私はもう一度聞き返した。
机を挟んで前に座る、警察庁長官の松平片栗虎に。


「だぁから、見合いだよう。見合い」


――どうやら、私の耳が悪くなったからでも、松平さんが言葉を間違えたわけでも無いらしい。


お見合い。
誰が?
――私が、だ。


顔がひきつる。
事情を求める私の視線に、松平さんは椅子に寄り掛かって


「おーれだってぇ、お前を見合いになんて出したくねえよぅ?娘をやるかってんだー!」
「娘じゃないです」
「なぁに言ってんの。お前は栗子のお姉ちゃんじゃねえか」
「違いますよ」
「あー言っちゃった!言っちゃったよ、栗子に告げ口するからね、しちゃうからねえ!」


――告げ口されても、私は別段困らないんだけどな…。
と、眉を下げて頭を掻く。


それにしても、松平さんが断らない。
いや、断れないとは、かなりの重鎮からのお誘いなんだろうか。


相手の詳細を聞き、一度会うことは断れないだろうと思いながら「結婚まではいきませんからね」と言っておいた。









「しかし、名前さんがお見合いか!」
「一体どういう経緯なんだ?」
「なんでも、アチラさんが地球に以前来た時の会議やらで名前さんを見かけて、それでらしいでさァ。ま、所謂一目惚れですね」


高級料亭の門の前。
護衛として居る真選組。
近藤、土方、沖田の三人が言葉を交わしている所に、黒塗りの車が止まった。


「おーうお前らぁ、ま、しっかーり頼むぜ」
「もう相手は着いてるぜ」
「あぁいよ。――名前」


――しゃ、らん。
軽い金属製の物が鳴る音がして、現れたのは――


「頭重い」


ずこっ!近藤と土方がまるで漫才のように肩を落とす。


「おい、お前その恰好でそりゃ無ェだろ」
「そうですか?本当に重いんですよ、これ。着物も堅苦しいですし…」
「ははは!いや、しかしとてもお綺麗ですよ、名前さん!」
「ええ、こりゃ結婚決定でさァ」


苦い顔で笑みを浮かべた名前は、けれどすらりと背筋を伸ばして綺麗に歩き出す。

料亭の中に入り奥へ奥へと進んだところ。
所謂「はなれ」の襖の前で名前は膝を折り、両の手を床へと揃える。


「――遅れまして。名字名前に御座います」


どんな喧騒の中も、その声だけは真っ直ぐに射られた矢のように響くであろう。
そんな声で名前は告げた。


「入れ」
「失礼します」


無駄の無い動作で立ち上がり部屋へと入る。
静かな音で襖を閉めて、再び膝を折る。

少し微笑みながら見据えた名前の先には、容姿端麗な一惑星の王子、レイ・クローディアス。


「今回はこのようなお話を頂き、誠にありがとうございます」
「話では無い、決定事項だ」
「…と、言いますと…」
「お前に私の妻になる名誉を与える」


襖の前で、護衛と名目付きの真選組は思った。

ああ、やはり王子とは傲慢な生き物なのだな。
そして、それを断ることは出来ないのだ。
レイ・クローディアスの惑星は親交が浅く、しかし力はある。
これは惑星と惑星の問題までが絡んでいるのだから。


「お断りします」


しかし意に反して、答えは真逆のものだった。





110225.