土曜日の昼間。
買い物に出ていた私はいきなり後ろから首根っこを掴まれた。
何事かと振り向けば、お馴染みになってしまった万事屋銀ちゃんの三人。
ちなみに私の首元を掴んだのは銀時だ。
「何と言うか…よく会うね」
「今までは一度も会わなかったのにな」
「もしかしたら気づかないだけで、すれ違ったりとかしてたんじゃないですか?」
「確かにね…ここら辺に来るのは初めてじゃないし」
「オイオイ、すれ違ってて気づかねえわけねえだろ?お前はこの輝く銀髪を馬鹿にしてんですかコノヤロー」
「神楽、何か買うよ。食べたいものあるかな」
「キャッホォオ!私、酢昆布が良いアル!」
「無視かァアア!」
騒ぐ銀時は流すとして…神楽は遠慮しているのかな。
いやでもすっごく嬉しそうだし…酢昆布で良いの?
「――もう我慢出来ないわ!いい加減にしてよね!」
すると声が響いて、私達の目の前に突如人が降り立った。
紫の長い髪を靡かせ此方を真っ直ぐに見据えてくる。
「さっちゃんさん!」
ああ、新八の…というか万事屋の知り合いみたいだね。
怒ってるようだけど喧嘩でもしたのかな。
呑気にそう考えていると、その人は私にビシッと指を向けた。
「あなた一体、銀さんのなんなの?!いきなり出てきたと思ったら、もうすっごい…すっごい……好かれてるじゃないのおお!」
…ええ?
もしかして怒りの対象は私なのかな。
銀時の何って…。
私は思わずにやりと笑う。
ちらりと銀時を見上げれば「勘違いすんじゃねーぞ」と顔をひきつらせ手を横に振る。
「銀時もモテないとか言いながらモテモテだね」
「だぁから勘違いすんなって!コイツはな、ただのストーカーなの!真選組のゴリラと同じなんだよ」
「またまた、そんなこと言ったら可哀想だよ?じゃ、私はこの辺で」
「オイ待て」
再び首元を掴まれる。
ぐえ、と潰れた声が出た。
ああ、まったく。
自然なフリして帰ろうとしたのにパーだよ、パー。
するとその女がズイッと私と顔をつき合わせた。
「あなた、銀さんの何?!」
「ああ、君が考えているような関係じゃあないから、安心して良いよ」
――それより、少し気になることがあるんだよねえ…。
「私も聞いて良いかな」
「な、なにかしら?」
少し怯んだ女。
その恰好をもう一度ちらりと見て
「もしかして君、…忍者?」
「そ、そうよ」
「うわあ、私、忍者に会うのは初めてなんだよね。すごいなあ、一度会ってみたかったんだ」
忍者とかスパイとか。
自覚はあるけど私はそういった類が結構好きだ。
真選組の山崎さんがしている監察もそう。
「かっこいいよね、忍者。屋根裏に隠れたり、あ、あと動きも俊敏でさ」
「や、屋根裏なんて当たり前じゃない」
「わあ、すごいねえ」
「な、何よこれ。何なのよ。怯んじゃ駄目よさっちゃん。これは罠。罠よ!」
すると銀時が私の首元から手を離し、そのまま自分の額にあてため息をついた。
「またお前は…。ホステスに伝授してこい。その技を」
「名前さんすごいですね。姉上のとこのマスターも、喜んで採用するんじゃないですか?」
はは、と笑う新八。
「に、忍者はねえ、そんなの出来て当たり前なのよ。ビルの上だって移動するわ」
「へえ!すごいねえ」
「くっ…!何なの、何なのよこれ…!」
何故だか悶えている風な女。
胸ら辺の服を握り締める女の髪がさらりと流れて、私はすうっと指を差した。
「髪の毛、地毛かな」
「え?ああ、そうよ」
「綺麗だねえ。紫色なんて、初めて見たよ」
「っ…!ああ!なんか、新しい感覚が…」
すると銀時に首に手を回されて引かれた。
さっちゃん、とは自分のことなのか、そういった名前の女から離れていく。
銀時は私の頭を軽く叩きながら
「とりあえずもうお前は喋んな。これ以上アイツの趣向を可笑しくさせんじゃねえ」
――グイッ、と。
銀時の言葉に答えるよりも先に、小さな手が、しかし強い力が私の手を引っ張った。
目をやれば、映るオレンジ色の頭。
「……名前、」
「んん?何かな」
「…………」
唇を尖らせた神楽は私の手を自分の頭へと持っていった。
視線は神楽の頭へと移る。
オレンジ色の髪の毛。
手に触れるのは艶がある柔らかさ。
視線を神楽へと戻す。
唇は尖っていて、澄んだ青色の瞳はそっぽを向いている。
――これは、もしかして…。
「神楽、」
「……何アルか」
「今日も晴れてるね」
「…!今日は曇りネ」
「ああ、そうだっけ?神楽の瞳を覗くと、何時でも晴れてるから分からなくなるね」
ぼわっと顔を赤くして、私の手を動かし自分で自分の頭を撫でる神楽。
「うがァアアア!」と照れているのを見れば、我ながら臭い事を言った甲斐もあるものだな、なんて。
110203.