「銀時、」
「………」
「…銀時、」
「………」
「………」
「…呼べ」
「?」
「名前、呼べ」
ぽかん。
銀時の言葉に目を丸くする。
次いで軽く笑って柔らかく言葉を紡いだ。
――銀時、と。
すると、ぎゅうぎゅうなんて可愛いモンじゃない。
私は銀時と銀時の腕に潰されるんじゃないかと思うほどの強さで更に抱き締められた。
銀時の熱い首元越しにさらさらと流れる川を眺めながら、私は数分前の事を思い出す。
「名前…!」
「ぎん、とき」
「っ…!」
「わっ」
突進する勢いで抱き締められたと思えばそのまま抱えられて、非常に驚いた表情の真選組やらを見ながら私と銀時は今いるこの川の畔までやって来た。
誰も居ないこの場所で銀時は荒い息のまま座り込んだ。
銀時の腕の中に居た私も当然同様となり、どくどくと強く動く銀時の心臓を感じた。
「……名前」
「…銀時」
「名前、っ」
「ぎんとき」
何故だか今は、返事をするよりも銀時の名を呼んだ方が良い気がする。
――ああ…久しぶりだな。
この名を口にするのは。
…あれから、何年経ったんだっけ?
「あの最後の日…」
「………」
「…死んだと思った」
「…私が?」
「ああ…」
ぽつり、ぽつりと。
その時の事を話し始める銀時は、時節思い出すことが辛いように息をのむ。
だから銀時と私の間で窮屈にしていた私の手を銀時の背中にどうにか回して、あやすように一定のリズムで叩いた。
そしたらまた一層力が強くなった。
でも辛そうになることは無くなった。
「鬼兵隊とか色んな一派に分かれて消えちまったしねえ。長髪の兄ちゃんとかもそうだし…私の店によく来てた白髪の兄ちゃんも一人で消えちまったよ」
「―…銀時たちは必死で探してくれてたんだね」
いやまあ、そりゃあ「名前居ねーな。ま、戦争終わったしもう良いか」なんてことは無かったとは思っていた、というか望んでいたけど。
「私は爆発で飛ばされて川に入ったんだよ。それで流されたからかなり遠い所に居たんだ」
私の首に銀時の顔がうずめられて、少しくすぐったい。
「でも…ねえ銀時。過去はもうどこにも無い。私達が存在してるのは現在だよ。こんな少し悲しい風な過去を振り返るのに意味は無いよ」
楽しいことならまだしも、悲しい過去を振り返っても何も生まれない。
反省材料も見つけられない。
「銀時、私達はいまを生きてる。いまだよ、いま。悲しむことは何も無い。――私と銀時はいま、こうして一緒に居るでしょう?」
「っ名前…!」
生きてて良かった、と。
紡がれた言葉に、私は眉を下げて微笑んだ。
「なんだよお前ら。まだこんなとこ突っ立ってたのか?」
「ぎ、銀さん!お、お帰りなさい」
「つうかお前らよォ、名前に会ってたんなら早く言えよゴラァ」
「い、痛たたたた!」
さっきの場所まで戻ってくるとまだみんなは居た。
新八たちも、真選組も。
新八の頭を拳で挟む銀時を笑みを浮かべながら眺める。
神楽も新八も妙も、みんな銀時の…――大切な人だったんだね。
確かに三人とも個性的で面白い人達だ。
ふふ、と頬を緩める。
するとお腹に神楽が抱き着いてきた。
「名前、久しぶりネ!」
「久しぶり、神楽」
「ねえねえ名前」
「ん?なにかな」
「名前は銀ちゃんの昔の女アルか?」
「やめてよ神楽ちゃん。名前があんなちゃらんぽらんの女だなんて…違うわよね?名前」
神楽の問いに吹き出した私の代わりに答えた妙に頷く。
「なんでい違うのかィ。俺ァてっきり旦那の弱味が握れたかと思ったんですがね」
「それについては俺も総悟に同意だ。アイツのあんな様子は初めて見たぜ」
「それにしても名前さんはお妙さんの知り合いだったんですね!」
にこりと笑顔の妙を見て頬を赤く染める近藤さん。
ぴん、と勘づいてにやりと口元を上げた。
「なるほど?妙が近藤さんが将来を誓っ」
「名前になに嘘吹き込んでんだ、このゴリラァア!」
言葉の途中でガシャアアン!と音を立てて酒屋に飛んでいった近藤さん。
その原因の妙は追撃を加えに飛び掛かっていった。
ぱちぱち、と瞬きをしてその光景を眺める。
頬を掻いた。
「私…何かしたかな」
「名前は気にしなくて良いネ。姉御はあのゴリラストーカーに制裁を加えてるだけヨ」
「……そう」
そして私は気付いた。
――山崎さん何処行った、と。
110127.