微笑む嘘吐き | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -



「今日も雨じゃないアルか。つまんないネ」
「ああ?お前この前までじめじめして気持ち悪いっつってなかったか?」
「あらやだ銀さん。過去のことは忘れてあげるのが男の役目ですよ」
「でも神楽ちゃん、どうして急に雨が好きになったの?」


新八が神楽に問うと、神楽は嬉しそうに笑った。


「教えてくれたネ!雨の日は雨を楽しめって、自分で楽しみをつくることが出来るって教えてくれたヨ!」
「教えてくれた、って…誰かが神楽ちゃんに?」
「そうアル」
「素敵な考えの人ね」


神楽の言葉を聞き流していた俺は、ふと空を見上げた。

夕暮れの空はグラデーションになっていて、彼方には星がひとつ、もう見えている。



「いわば人生はゲームだよ。日常的な出来事でも、生死をかけた事件でも、全ては自分がどの選択肢を選ぶかによって決まる。私は辛いよりも楽しい道が好きだから、何時でも楽しく生きられる選択肢を取るよ」



――何年経っても忘れねえ。
何時もはふわふわ好き勝手消えやがるのに、俺が沈んでんのに気づくと何時だって救い上げてくれた。
この言葉も俺が…ああ、なんで沈んでたのかなんて忘れちまったな。
それくらいお前の言葉は…お前は、俺を救っていたから。


軽く頬を緩めて、現実の時間に思考を戻す。


「素敵と言ったら…ねえ新ちゃん、また来てくれると言ったんでしょう?」
「ああ、あの人ですか!またねって言ってくれましたよ」
「?姉御たちにも素敵な人が居るアルか?」
「ええ、とっても素敵よ。また早く会いたいわ。卵焼きも準備出来てるのに…」
「オイオイお前のダークマターを食べさせる気か?」


ドゴッ!と鈍い音を立てて俺の顔に拳が入った。
慣れたもので眉を寄せながら顔を擦っている俺の耳に、神楽の声がリアルに響いた。



「早く私もまた名前に会いたいネ!」



―――…名前…?


「あら奇遇ね。私達の人も名前って言うのよ」
「僕らのも神楽ちゃんのも同じ名前さんかもしれないですね、あはは」


……はは、ははは。
いやナイナーイ。
名前っていう名前が、この広い世の中に一人だけなわけないだろ?



「ふ、ざけんなよ名前!出てこいよ、なあ!何処行ったんだよ…!――死んだとか言うなよ…!」



…そうだ、そんなことある筈ねえ。
アイツは…名前は…――


「…オイ、」
「なにヨ、銀ちゃん」
「ソイツの名字…何だ?」


いやいや、試しにだよ。
ちょっと気になるじゃん。
新八の話だと?運良いみてえだし?一緒にパチンコ行ったら大当たりすんじゃねーかなと思ってるだけだ。



「名字ネ。名字名前っていうアル!」



―――…名字名前…。
オ、オイオイ、これすげー偶然だな。
同姓同名じゃねえか。


「あら、じゃあ…」
「姉上、これきっと神楽ちゃんの言う名前さんって僕らと同じ人ですよ」
「そうね。名前ならそういう素敵な生き方をしていそうだもの」
「あ!噂をすれば…前に見えるの、あれ名前さんじゃないですか?!」


新八の言葉に、心臓がどくりと強く鳴る。
――ゆっくりと、視線を前に持って行って――


「きっとそうネ!…でも、なんでアルか!真選組の奴らと居るヨ!」
「ふふ、ゴリラのくせに生意気じゃないかしら」
「あ、姉上…ってちょ、銀さん?!」










「へえ、山崎さんって監察なんですか」
「はい、じ、地味なんで」
「地味ですか?監察って格好いいですよね」
「え、ええー!」


驚く山崎さんに首を傾げる。


「監察って潜入捜査とかもするんでしょう?格好いいじゃないですか、スパイですよスパイ!」
「そ、そんなこと言われたの初めてです」


へへ…と山崎さんは照れ臭そうにはにかんだ。
と、思ったら山崎さんが吹っ飛んだ。


「名前さん、俺をアンタの弟子にすること考えてくれやしたか?」
「あれ…山崎さん、飛んできましたよ」
「アイツはバドミントンやりに行きましたさァ」
「ダイナミックな始まりですねオイ」


ていうか私の弟子って、まだ言ってたのかこの人。
「ムチだけじゃ駄目のは分かってましたが、アンタみてえなやり方は初めてでさァ。今後の為にも是非ご教授くだせえ」
今後の為に、って私は最初今日みたいな尋問の為にかと思ったんだけど違った。
まあ…沖田さんはドSだということだ。


「弟子にしてくれないんなら強行手段を取りまさァ。バズーカで撃ち落としますぜ。土方さんを」
「って俺かよ!はあ…近藤さん、アンタも何か言ってやってくれ」
「名前さん、これから行く所には俺の運命の人が居ましてね!まあ生涯を共に生きると誓った仲なんです、ははは!」
「何言ってんのォオ?!つうか誓ってねえだろ!」


――全く、賑やかな人達だ。
まあ…面白い。
つまり楽しい。
から、良いんだけどね。



「―――名前!!!」



すると後ろの方から名前を呼ばれ、足を止め振り返った。


この声…何処かで…――



「名前!!!」



―――――…ウソ…。
まさか…この街に居たの…?



「―――…銀時…?」



呟けば、…――銀時は眉をグッと寄せ唇を噛み締めて


「っ、名前…!」


私を、抱き寄せた。





110127.