つまらなそうに体を戻した男に反して、私はそのままに、わざと机を見ながら口を開いた。
「島田家?」
「ハッ、言うかよ」
椅子に背を凭れ嘲笑う男。
私は変わらず穏やかに笑みを浮かべたまま、次の単語を発する。
「清家園かな?」
「だから、言わねえよ」
視界の中、男の視線がちらりと素早く私を捉えた。
そして私と目が合わないことに安堵したようにまた笑う。
――…ビンゴ。
穏やかな笑みを深めてしまわないように注意する。
目は口ほどに物を言う。
人は嘘をついた時目を見られたら嘘がバレてしまうのではないかと恐れる。
さっき私が男をじっと見つめていれば、男は狼狽えたかもしれない。
でもそれじゃ簡単過ぎる。
一部の情報しか得られない。
この男の一派のアジトは清家園でほぼ間違いない。
けど…まだ欲しい情報はあるんだよね。
「拷問、痛かった?」
「あ?」
「拷問。傷がたくさんあるけど、それでも言わないなんてかなりの忠誠心だね」
「ハッ、忠誠心なんてモンじゃねえよ!絆だ!絆!俺らは繋がってるんだよ」
ホント、使いやすいな。
―――ピリリリリリ、
「ごめんね、出るよ」
「勝手にしろ」
「ありがとう」
ポケットから携帯を取り出して画面を開く。
アラーム画面のそれをボタンを押して止め、尚且つサイレントモードに設定する。
耳にあてた。
「――もしもし」
そう言っても、向こうから声は返ってこないが。
「ああ、うん、今?え、清家園?嫌だよ遠い」
ぴくり
男の視線が此方に向いた。
「え?うん、うん、…そう」
そこで私は男を見やる。
じっと私を見てくる男から直ぐに視線を逸らした。
「ああごめん、少し待って」
携帯を肩に押し当て、そして席を立つ。
ドアに向かって足を進め、ドアノブに手を掛けた瞬間
「待てよ!!!」
大きな声で制止された。
ノブに手をかけたまま振り返ると、荒く息をし私を必死の形相で見る男。
「部屋から、出るな!此処で、今までと同じように、俺に分かるように、電話しろ…!」
「………」
「じゃないと、情報は言わねえぞ!!」
―…ふう、とため息をつきドアノブから手を離す。
そしてドアの直ぐ横の壁に寄りかかった。
ふふ、分かるかな?
私は何時でも部屋を出ていけるんだよ。
立場が優勢なのは、私だ。
それにしても…清家園がアジトで確定だね。
「…で、要求は?私いま真選組に居るからなんなら連れてくけど」
視界の端に映る男の表情が微かに輝いた。
ふふ、ごめんね。
「え?…そう、そう。一億円なら軽く出すと思うけど」
男が驚きに顔を染めた。
軽く相槌を打つフリをしてから電話を切る。
パタン、と閉じてポケットに滑り込ませた。
目を見開き荒く息をしながら私を必死に見てくる男に素知らぬ顔をして鞄を背負うと
「ま、待てよ!まだ尋問は終わってねえだろ?なあ、なあ…っどこ行くんだよ!」
「――君、売られたよ」
「…は、はあ?何…言って」
「今の電話は私の同僚からでね。貴方の仲間が情報を売るから金をくれ、って提案してきたらしいよ」
「う、嘘だ!」
「信じるも信じないも貴方の勝手だけど、とにかくもう貴方に用は無いの。何時までも口を割らない人を相手にするより、金で解決出来るならそっちを選ぶんだよ、国は」
嘘だ…嘘だ…と呟くように繰り返す男。
囁くように、言葉を紡ぐ。
「だって…ねえ、分かるでしょう?敵方に捕らわれた仲間は何時情報を漏らすか分からない。もし情報が知られれば被害は多数。…ならば先手を打ってしまおう。金と自分達の身の安全を代わりに少しの情報を。被害は…君ひとりだものね」
そう、片方は被害が一人。
もう片方は被害は多大。
どちらを選ぶかなんて、決まってる。
目を見開き血走らせたまま固まった男からそっと離れ、ドアに向かう。
ゆっくりと、ゆっくりと、靴の音を鳴らして歩く。
「…待て、よ…」
こつん。
爪先を地面に鳴らす。
振り向かない背中に、その男の怒りに震える声がびりびりと重圧感を与える。
「金は要らねえ…!けど、けどお前らが欲しい情報をやるよ!アイツらよりも…!だから、だから……!」
ゆっくりと振り返る。
交わった瞳の中で―――
「アイツらも、地獄に落とせ…!!」
狂気が顔を覗かせた。
110121.