微笑む嘘吐き | ナノ
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休日、何時もより深い眠りから覚めると外から雨の音。
カーテンを開け、灰色の空を眺めた。




ぱしゃっ、
少し底の厚い靴のお陰で足が濡れることは無い。
透明の傘を楽にさし、何時もより静かな空気の中を歩く。

雨が降って、尚且つ仕事、または休日でも外に出る用事がある時にたまに行く場所。
街の少し隠れた場所にある、小さな池。


「―…あらま、」


今日は先客が居るようだ。
此処は隠れた場所なのに、珍しい。


オレンジ色の頭に、赤いチャイナ服。
池の前にしゃがんでいるその小さな背中。


足を止める。
しとしとと雨が木々を濡らす音がする。

するとその子が振り返った。



「やっと来たネ」


………私、じゃないよな。
初対面だ。
後ろに誰か…

後ろを振り返る。
誰も居ない。


「お前ネ」
「…私?」
「そうアル」


自分を指差すと、透き通るような青い瞳に真っ直ぐに見つめられた。


「こっち来いヨ。何時もみたいに池見るヨロシ」
「はあ…、ていうかなんで私が池を見てることを」
「いいから来いヨ」
「あー…、はい」


…ま、いっか。


石段を進んで池に着く。
木々の下のお陰で濡れていないベンチに腰掛けた。

するとその子も立ち上がり歩いてきて、私の隣に同じように腰掛けた。


じいいいいっ
「………」
じいいいいっ
「………」
じいいいいっ
「……あの、さ。私見てて何か面白いかな」


そして私を直視してくる。
なんでだ。
私何かしたか。
いやいや、初対面だぞ。


「私も聞きたいヨ」
「ん?」
「雨降る度にたまに来てこうしてるけど、何が面白くて池眺めているアルか?」


…話を聞く限り、この子は雨の中此処に居る私を何回か見てるってことか。


「雨は嫌い?」
「嫌いじゃないヨ。私は日の光に弱いアル」
「んん…もしかして君、夜兎かな?」
「そうアル」


―――夜兎。
宇宙最強を誇る絶滅寸前の天人の種族で戦闘に長けている。


ふうん、夜兎ねえ。
夜兎で会ったのは海坊主さんくらいかなあ。


「で、何が楽しいアルか」
「…楽しい、とはまた少し違うかな。ただ雨の日は落ち着くような気がするんだ」
「落ち着く…?どこがアルか、ザーザーザーザーうるさいネ」
「ふふ、そうかな。よく耳を澄ませば分かる筈だよ」


そう言うとその子は目を閉じる。
邪魔しないように静かに池を見つめた。




「―…あ、」
「…ん?」

「雨の音しか、しないアル」


うん、と頷いた。


「江戸は活気ある街だけど、雨の日は雨の音しか聞こえない。または雨に関係する音しか聞こえないんだよ」
「なんでアルか!凄いネ!」
「雨のね、雨の雫が、空気中にある音を包み込むんだよ」
「へー!凄いネこいつら!」


それから、とベンチから腰を上げて池へと歩く。
着いてくるその子と、池の前に立った。


「池の位置でも、音が違う。池の端の方と池の真ん中」
「……分かんないネ」


しょぼん、と顔を下げるその子の足元にある石を二個掴む。
そしてまず池の端に投げた。



ちゃぽんっ



次に池の真ん中に。



どぽんっ

「全然違うネ!」
「そうだね」
「私雨でも聞き取れるようになりたいアル!楽しくなってきたヨ!」
「…あ、でも今日はもう晴れるみたいだね」


次第に弱くなる雨の音に空を見上げれば、流れていく灰色の厚い雲が見える。


「えー!空も空気読めよな。KYアル」
「まあまあ。此処の空は気紛れなものだよ」
「私の故郷の空はいっつも泣いてたヨ。毎日真っ直ぐ自分の心は変えない奴だったヨ」
「良い奴じゃん」
「…だから雨の日の楽しみ方を知りたかったアル。でないとアイツ、もっと泣いてしまうネ」
「………」


晴れ間が見えてきた空。
輝き始めた池。

傘を下ろして、池を指した。


「じゃあ『アイツ』にまた会ったなら、土産話をしてあげなよ。『アイツ』がもう泣かなくて良いように。――笑ってみても良いことはあるもんだ、ってね」
「わあ……!」



池に映った、空。
透き通る水の表面に移る、青空と太陽。


「す、すごいアル!すごいアル!綺麗ネ!」
「ふふ、雨の日でも風の日でも、楽しい人は楽しい。つまらない人はつまらないよ。つまり、っ」


少し大きめの石を勢い良く池に投げ入れる。



「―――虹!!!」



上がった水飛沫の空に虹が出来た。


「自分で何でも変えられる」


短く橋架かった虹を見上げて口元を上げる。


「私、神楽っていうネ!」
「そう、私は名前だよ」
「名前、名前!」


楽しそうに名を呼んでくる神楽に目をやる。


「私雨の日はこれから此処来るネ!家の中はムサい男二人がじめじめうじうじ、鬱陶しいアル」
「あらま」
「だから名前も雨が降ったら毎回此処来るヨロシ!」
「んん…でも、その人達が雨でうじうじしてるなら、神楽が離れたらもっと駄目になっちゃうんじゃないかな」


首を傾げる神楽。
私は空を見上げる。


「晴れは、空に太陽」
「?、?」
「神楽、神楽の目と髪…元々かな?」

――凄い、綺麗だね。

「目と、髪………っ名前そういうのはクサイアル!やめるヨロシ!」
「はは、照れてる」
「うがァアアアア!」





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