「新ちゃん、このくじ引きは私達の為にあるようなものね。一等はバーゲンダッシュ五箱に」
「お通ちゃんのサイン入り色紙ですもんね!お通ちゃぁああん!」
「うるさいわよ、新ちゃん」
え…一等ってバーゲンダッシュ五箱とお通ちゃんのサイン入り色紙なんだ。
甘いものは好きじゃないし、お通ちゃんもあんまり聞かないんだよなあ…二等の米50キロを狙おう。
「名前ってくじ運良さそうだし、っていうか良いだろ?行ってこいよ!」
確かにくじ運は悪くはないけど、当たるかねえ…。
赤いガラガラを回して、出てきた白色の玉に残念そうに声を上げる二人前の人達を見て薄く苦笑する。
「新ちゃん、私達の番よ!」
「はい、姉上!姉上からどうぞ!」
あら、この二人は姉弟か。
てっきり恋仲とかそんなんかと、仲良いね。
「おらァアアアア!!!」
ギョッと目を剥く。
今の声、お姉ちゃんの方からしたぞ。
―――カラ、ン
「残念!ハズレ賞、ティッシュで〜す!」
「あ、姉上!姉上の仇は僕が取りますね!」
勢い良く回したけど、結果はハズレ。白い玉。
次いで弟の番。
「お通ちゃぁああん!!!」
―――カラ、ン
「残念!ハズレ賞、ティッシュで〜す!」
勢い良く回したけど、結果は以下略。
影を背負って去っていく姉弟を横目で見送りながら、心の中で手を合わせた。
「はい、引換券出して!」
ハッピを羽織ったおじさんの言葉に、同僚から渡された引換券を渡す。
何の気なしに軽く回して
―――カランカラン!!!
「一等!大当たり〜!!!」
「はは…、」
当たっちゃったよ。
しかも一等。
高らかになる鐘。
ざわめく後ろの人達。
そして少し遠くから送られる鋭い視線。
「「………」」
凄い見られてるよ。
さっきの姉弟に凄い見られてるよ。
数十メートル先なのにこの眼光…ただ者ではない。
なんてね。
「はい、おめでとう!」
「ありがとうございます」
おじさんからバーゲンダッシュ五箱とお通ちゃんのサイン入り色紙の一式を貰う。
よろよろとよろめきながら道を歩いて、立ち止まったままの姉弟の横で止まった。
首を傾げて私を見てくる姉弟に、少し似てるなと思う。
「あげます、これ」
「「ええ?!」」
どん、と地面に置いた。
「あ、あげますってそんな、悪いですよ!」
「いやいや、私が狙ってたのは二等の商品でしてねえ。あなた達の会話が聞こえてたので、もし良ければ」
「い、い、良いんですか?」
「はい」
頷き笑う。
そして歩き出した。
「待ってください」
「?」
「私達二人じゃとても家まで運べません。手伝ってくれませんか?」
「へえ、道場なんだ」
「ええ。お父上の道場、これを復興させることが私達の夢なのよ。ね、新ちゃん?」
「はい!あ、お茶どうぞ」
「ありがとう。道場の子供ってことは二人共、剣術とか長けてるのかな?」
「姉上ほどじゃないです」
「新ちゃん、それどういう意味?」
「すいませんでした!」
軽く笑ってお茶を飲む。
手伝ってくれとは言葉ばかり、私にお礼をしたいらしく何やら色々出してくれる。
「で…これは、…」
「卵焼きですよ。良かったら食べて下さい」
そう…色々、だ。
「あ、姉上!これはお礼じゃありません、拷問です!」
「ああ?」
「すいませんでした!」
卵焼き…確かに何かを焼いたみたいだけど…これ、卵だったのか。
黒い物体を箸で持ち上げるとカシャッ…と一部が皿に落ち戻った。
カシャッて。
カシャッて。
ふうむ…妙は面白い人のようだし、料理に対してもユーモアを忘れないのかな。
――――パクっ
「ああ…!」
シャリシャリシャリシャリ
一般的な卵焼きの食感とはまるで、というか全く違う。
あまり噛まなくても粉々になったそれは少しの苦さがあって、思わず少し眉を寄せた。
「名前さん!無理しないで、吐き出して下さい!」
「え?大丈夫だよ。ただ少し苦いね。ちょっと焦がしちゃったんでしょ、妙」
にっと笑ってお茶を飲む。
焦げが喉に引っ掛かった。
「ええ、やはり火加減は難しいわね…。味は?どうかしら」
「私は甘いよりは妙の味付けの方が好きだな」
「味付け?!ていうか味なんかあるのコレ!」
「あら嬉しい、名前に会えて良かったわ。また作ってくるわね!」
そう言ってパタパタと駆けていった妙を見送る新八が、ぽかんと口を開いた。
「あんな姉上…久しぶりに見た…」
首を傾げる。
ことりと湯飲みを置く。
「久しぶりに?」
「あ、はい。姉上があんなに嬉しそうというか、はしゃいでるというか…子供の時みたいで懐かしいな」
「……ふふ、そっか」
「あ、すいません!ぼ、僕色んな人にシスコンって言われるくらいで…」
「いや、良いんだよ。それが、その方が良いんだよ、新八」
タタン、と机を指で鳴らす。
少し頬を染めながら首を傾げる新八の目を、真っ直ぐに見た。
「家族を好きだと、大好きだと言って何が悪い?何も悪くないよ。恥ずかしさなんてものも無いね。新八が妙を好きだということは、妙に素敵なところがあると肯定することと一緒だよ」
「!」
「私が思うに妙は素敵な人だけど…ふふ、どうかな。新八は、妙が好き?」
「好、きです!大好きです!姉上は素晴らしい姉上です!」
「ふふ、そっか」
「お通ちゃんも!」
「…ああ、そっか」
―――ピリリリリリ、
すると携帯に着信。
ポケットから取り出して画面を開くと、そこには同僚の名前。
…しまった、すっかり忘れてた。
「ごめん新八、仕事の電話が入ってさ。このままおいとまさせてもらうよ」
「わ、分かりました」
「妙に宜しく言っといて」
お茶を飲み干し立ち上がる。
上着を羽織る私に、新八は顔を伏せている。
「?新八?」
「っ…名前さん、」
「ん?」
「あのっ、また、来てくれますか?!」
荒く息をし肩を大きく上下させる新八に真っ直ぐに見られる。
柔らかそうなその黒髪を、さらりと撫でた。
「またね」
(言葉の、真偽は不確か)
100119.