「小太郎、」
「……名前か」
「辰馬行ったよ」
「…そうだな」
坂本が戦争から抜けた。
自分の夢を叶える方法は、国を救う方法は戦争じゃないという彼奴の考え。
きっと今はもう、母屋を一度も振り返らずに歩いて、前を向いて、未来を見据えて、宙を向いて、進んでいるんだろう。
「…名前、」
「うん?」
「戦争はきっと…もう直ぐに終わる」
「…うん」
「坂本の馬鹿は、少し先に行ってしまったな。少しだがな、ははは」
大きく丸い夕日がじわじわと縁を揺らしている。
縁側に座っていた俺の隣、肩が触れ合う距離に名前は座った。
「少しだけど…それでもやっぱり寂しいね」
その俺より小さな肩に、何故俺はこんなに安堵するのだろう。
「小太郎も寂しいよね」
「…気色悪いことを言うな」
「はは、見てないんだから泣いても良いんだよ」
「誰が泣くか誰が!」
吠えれば名前は笑った。
目を見つめられ微笑まれて、俺も思わず頬が緩む。
それと共に体の力が抜けて、何故か息が詰まっていたことに気付いた。
夕日に顔を戻した名前は、紅い光に包まれて、瞬きした次の瞬間には居なくなってしまうのではないかと思わせる。
夕日だけじゃない。
夜なら、ふと視線を移した隙に暗闇に溶けて消えていそうなんだ。
「小太郎、ご飯食べよう」
「ああ…そうだな」
――この隣の温もりが消えてしまったら、俺はどうなるのだろう。
「おい、名前は見つかったか!」
「っ見当たらん!町の向こうまで行ったが…!」
「チッ、ふざけんじゃねえ!死ぬなんて許すかよ…!」
――――終戦。
今までで一番死者が出た。
走り回る地面にも、倒れている仲間や天人。
でも何処まで探しても名前は居なかった。
「くそっ…!」
なんで帰ってこない。
なんで、なんで、
戦争は終わったんだ、帰ってこい、名前。
お前が居なければ銀時も高杉も坂本も、俺もバラバラだ。
「名前…!!!!」
夜の闇に消えてしまうのか。
ならば俺は夜明けをもたらそう、お前が消えることのない夜明けをこの国中にもたらそう。
だから、だから帰ってこい。
帰ってこい、名前。
100113.