「――おい、アレ見ろ!」
「!名前!」
銀時ら四人が戦地を突き抜ける中、前方に見慣れた姿。
名を呼ぶと、名前はゆっくりと振り返って
「あれ、四人揃って…そんなに急いでどうしたの?」
至って普通に、何時もの調子で微笑んだ。
それに四人はグッと唇を噛み締める。
「なに…笑ってんだコノヤロー!」
「…?!」
「名前、体は…大丈夫なのか!何もされてないか?!」
「……はい?」
「名前は馬鹿じゃき!わしらは…わしらを庇って…!」
「あの、話がよく」
「テメェ、天人より先に俺らに殺されてえのか…!」
「だから、話がよく見えないんだけれど」
――少し大きな声を出せば、四人は眉を寄せたま口をつぐむ。
私は徐に右手を上げた。
「団子買ってくるのがそんなに駄目だったかな」
ぽかん。
私の右手にぶら下げられた団子の包みを見て、四人は固まった。
私は眉を寄せて首を傾げながら口を開く。
「昨日言ってたでしょう?団子買いに町に行ってくる、って」
「な…おま、団子…ハァアアア?!」
「銀時にも言っていたよ」
「しか、しかしお前、団子ごときでこんなに時間がかかるものか?朝から居なかったではないか」
「ふふ、この団子見て分からない?――1日10個限定!まるやの特製団子!…だよ?」
「なぬ!わしも食べたい!…じゃなくての、本当に、ほんっとうに団子買いに行っただけなんか?!」
「他にどこに?」
「…昨日襲撃してきた天人達の軍艦が三隻とも爆発したんだとよ。だからお前が…」
「…軍艦、爆発したの…?」
晋助の言葉にぽかんと口を開ける。
次いで苦笑い。
「私が潰しに行ったと思ったの?軍艦三隻とか…私は怪物か」
これは流石に予想外だ。
私が一人で軍艦三隻を爆発させたと思ってるなんて…四人共私を何だと思ってるんだ。
「―――名字!」
すると銀時達が来た方から他の攘夷志士が沢山走ってきて、私の姿を見るなりホッとし、けど直ぐにぎゅっと眉を寄せた。
それを見て直感する。
――…私が居なくなった後の作戦会議の会話を、私が聞いていたことが気づかれたな…。
誰が気づいたか、分かったかは知らないけど…面倒臭いことになった。
「名字!俺達…すまねえ!」
「…?」
「聞いてたんだろ…俺達が、その…お前を天人に渡さねえかって…言ったこと」
皆に一斉に頭を下げられた。
銀時たちは私を見ている。
「…そんなこと、」
「気ィ使うな!悪いのは…俺達だ!」
「そんなこと…」
私はぐっと拳を握り締め、
「そんなこと言ってたのかコノヤロー!」
先頭に立っていた男の頭にごちん!と降り下ろした。
そして意味が分からないと言った風に全員の視線が向けられたのに対し、少し焦ったように頬を掻いた。
「あれ…今の銀時の真似だったんだけれど……似てなかったかな」
「似てねェエエ!」
銀時に頭をチョップされた。
痛いぞコノヤロー。
……似てないのか。
「名前、嘘をつくな。お前が話を聞いてしまったことは分かっている」
「…?なんでそんなこと、」
「お、俺その時に医務室に居たんです!名前さんが部屋に入った音はしなかったです!」
すると後ろの方で泣きそうな顔で男が答えた。
「ああ、医務室は私の部屋の隣か。…襖を開けたのに部屋に入らないで、また閉じたのを聞いたの?」
「は、はい!」
「……みんな、ごめん」
謝った私に首を傾げる皆。
皆を伺うように苦笑いで、私は口を開いた。
「上手い具合に色々当てはまっちゃってるみたいだけれど…全部勘違いだよ。襖を開けて閉めただけなのは、部屋に入る前に、図書室に用事があるのを思い出したから…なんだよね」
固まってしまった空気に、私の虚しい笑い声が響く。
「…まあ、でもそう…、天人に私を渡そうと、ね…」
「げ!や、やべえ!」
「言わない方が良かったね。このまるやの特製団子はあたらないよ」
「え!食べてえ!」
「ふふ、数分前の自分を後悔するんだね」
すると小太郎に頭を撫でられた。
「しかし…無事で良かった」
「ありがとう、小太郎」
「わしも心配したきに!」
「ありがとう、辰馬」
「…帰るぞ。おら、テメェらさっさと歩け」
晋助が鬼兵隊の人達を蹴るのを見ながら、私は銀時を見る。
「私、もう少し買い物してくるよ」
「ああ?…俺も行く」
「嫌だよ。銀時と行ったら甘いものばかりだからね」
「てめえ、甘味の良さが分かったと思ったのによ」
笑って皆が母屋に帰る方向から一人反対を向く。
団子を銀時の手に乗っけて、背を向いて歩き出した。
100113.