「地球人でもない、天人でもない。私は…この世界のモノじゃない」
「…違う世界から来たって言いたいの?」
「飲み込みが早いですね」
「…そうでもないよ。内心はね」
そう言うとセイは頷きながら笑った。
「貴女に頼みがあるのです」
「…何かな」
「私と共に、世界を越えてほしいのです。勿論、貴女は直ぐに帰ってこれますよ」
「……最初から順々に話してもらえるかな」
――セイの話はこうだ。
セイは異世界の人間で、手違いでこの世界に来てしまった。
異世界に渡るのには一人で良いが、自分の世界に戻る時には、異世界の人間と共にでないと戻れない。
ただし異世界の人間が誰でも良いわけではない。
「世界の虚無さを理解出来る人でなければならない。真理を理解出来る者でなければ」
「真理…私じゃなくても、話せば誰でも分かると思うけど」
「分からないのです!世界を越えたことのない人間がこの真理を理解することは滅多に無い」
この…私が今居る世界は、世界を越えることが無い住民達の世界らしく、そのような世界に来てしまったら、戻れることは0に等しい。
真理を理解出来る者が居ないから。
「世界の真理…虚無、か」
ぐちゃぐちゃだ。
思考が。心が。
世界はこれだけじゃなくて、無数にある。
「当たってたけど…死にたくなるね」
「………」
「私はこの…真理?を、自分の精神を保つ為に考え出したわけだけど…」
人を殺しても罪悪感、というか気持ち悪さを無くす為に、正当化する為に考えてたら、出てきた思考。
気付いた事実だ。
「自分の精神を守る為に出した、気付いた真理によって、私の精神はまた危うくなる。…駄目なスパイラルだと思ってたけど、本当のことじゃしょうがないね」
世界が沢山あるなら、今此処に居る意味が分からなくなる。
何の為に毎日戦ってるのか。
何の為にこの世界で生きてるのか。
―…まあ良い。良いんだ。
考えなければ良いだけの事。
考えなければ、それが一番の精神の安定になる。
「昔…同じような世界から帰ってこられた方が居ました。その方が連れてきた異世界の方は…貴女と同じ目をしていた」
「同じ目…?」
「天人達の首を切り落とす貴女を見て思った。―…あの人と同じ、世界の虚無を…真理を理解した人だと」
「………」
「しかしそのような世界で真理を理解出来る人は、世界を越えることによって更に世界に虚無を感じることになる」
「別に、良いよ」
「………」
「良いよ。セイは…襲撃を止めてくれたから」
「…本当にありがとうございます。――では、私の手を取って下さい」
差し出された手に、静かに自分の手を重ねる。
次の瞬間、眩しい光に包まれた。
100112.